奧座敷同人 1999年の 5 盤





さてはて、本年もまた「奥座敷同人5盤」リリースの季節がやってまいりました。
新譜・旧譜に拘わらず、各人が昨年聴いた中でベストと思える音盤を僅か 5 盤にセレクトいただき、とりまとめたものにございます。この場をお借りしまして、同人の皆様には厚く御礼申し上げるとともに、蘊蓄深き各御仁のセレクション及びコメントひとくさりをご快読いただければ幸甚にございます。
なお、執筆者名をクリックすると記事に飛びます。

店主鞠躬




































斉諧生


 
斉諧生音盤志に関する最多のFAQは「あれだけたくさん買って、いったい、いつ聴くんですか」だが、答は「とても全部は聴けません」。
 今年も、選盤に当たって最大の悩みは、あまりに未聴盤が多いこと。
 したがって、次に掲げる5枚を「今年発売されたCD中のベスト・ファイヴ」と言い切る自信はない。比較的知られない演奏家のリコメンドとしてごらんいただきたいと思う。

(1) トルルス・メルク(Vc)アイオナ・ブラウン(指)ノルウェー室内管
   ハイドン:チェロ協奏曲第1・2番 (Virgin 5-45014-2)


 現代の「チェロの貴公子」メルクでは、今年出たラトルとのエルガー(Virgin)も素晴らしかったが、彼の演奏がその曲の音盤のベストになると思われるのが、1991年録音のハイドン。
 メルクの音は極めてnoble、音程がぴたりと決まり、ヴィブラートも音の振幅が比較的小さく、汚い音を出さない。冴えた技巧の上にも冴えに冴え、音楽の作り方も極めて端正、それらが曲とマッチして、理想的な演奏になっている。
 メルクは1961年ベルゲン生まれ、ドングリの背比べ状態の若手チェリストの中から抜きん出てくるのは、きっとこの人だろうと思う。
 なお、ノルウェーSimax原盤で、そちらでも手に入る。

(2) 飯守泰次郎(指)東京シティ・フィル
   ブルックナー:交響曲第4番 (Fontec FOCD9130)


 ぜひ、先入観にとらわれず、このディスクを聴いていただきたい。
 弦合奏の美しさ・立体感、木管・金管楽器の和音の美しさ、管弦のバランスのよさ、ツボを心得たテンポの緩急、壮麗で分厚いトゥッティの響き、誠に誠に見事なブルックナー演奏である。
 また、原典信仰の風潮の中、あえて改訂版を部分的に採用し、更にグロッケンシュピールの追加も厭わなかった、その確信も評価したい。
 朝比奈隆に続く日本のブルックナー指揮者として、飯守泰次郎の名を挙げるものである。

(3) フレデリク・プラッシー(Vn)ペーター・フェラネツ(指)スロヴァキア国立コシュツェ響
   ブラームス:ヴァイオリン協奏曲ほか (BNL 112891)


 夙に他の同人が取り上げておられたプラッシーを、今年ようやく聴いて、非常に感心した。清々しく仄かに甘い美音、折り目正しくフレッシュな音楽。とりわけ高音の涼やかな美しさは、並み居るメジャー・レーベルの売れっ子を遥かに凌ぐ。
 中でも感心したのがブラームスの協奏曲の立派な出来。音は細いが、力感が必要なところでは堂々と立ち向かう。もちろん、歌うところでの音色は比類のない美しさ。
 まだまだ成長の余地を残してはいるが、かけがえのない美質を誇る、1972年生まれ、長身白皙の青年ヴァイオリニストを、ぜひお聴きいただきたい。

(4) ヤン・パスカル・トルトゥリエ(指)BBCフィルほか
   リリー・ブーランジェ;カンタータ「ファウストとヘレネ」ほか (CHANDOS CHAN9745)


 狂喜感動の1枚、リリー・ブーランジェのローマ大賞受賞作のCD初録音である。
 内容的にはマルケヴィッチ(Concert Hall、LP)に一歩を譲るが、十分に美しい演奏・録音で、立派に責を果たしている。
 あくまで輝かしい「詩篇第24番」、キラキラと愉しい「春の朝に」、ティンパニが死の時計を刻む「悲しみの夕べに」、まさしく深淵を思わせる「詩篇第130番」と、他の収録曲の演奏も佳い。
 トルトゥリエには、ブーランジェの残る作品のリリースと、同じく埋もれたローマ大賞受賞作、ポール・パレーのカンタータ"Yanitza"の録音を期待したい。


(5) ウェイン・マーシャル(P)バリー・フォージー(指)BBCビッグ・バンド
   「スウィング・イット!」 (Virgin 5-45353-2)


 今年、もっとも繰り返し聴いたCDだろう。8月以降、休日の朝は、必ずこれから鳴らし始めた。
 オルガニストとして有名なマーシャルだが、これは「A列車で行こう」・「ス・ワンダフル」・「サテン・ドール」・「ビギン・ザ・ビギン」・「スィング・スィング・スィング」等々、所謂「スウィング・ジャズ」の名曲でピアノを弾いたアルバム。
 とにかく楽しい。「アンヴィル・コーラス」など、来るぞ来るぞとわかっていても、ヴェルディの主題がサキソフォン合奏で吹き鳴らされると、本当に笑えてしまう。
 マーシャルのピアノは美しいし、管のプレイヤーも腕達者、ジャンルに関わりなく、極めて上質の音楽といえる。





浮月斎


 99年はネツトを通じた交誼が擴大、己が音樂體驗が豁然と拓けたことは、嬉しきことだつた。今年の伍盤は、略々その掌中にあると云つてよいだらう。特に、大林徳吾郎さんからのオルガンに關する多大な御指南、また四方善郎さんからの壯絶なインスパイア、中野洋一さんからの高度情報網など、各々篤く御禮申し上げる。
 で、今年は聽く範囲が以前にも増して偏頗分散したゆゑ、可成り妙な樣相を呈してゐるかもしれぬが、私にとつてはスリゝングな音盤聽きの壱年だつたのかもしれぬ。

(1) 高瀬アキ&井野信義 : 天衣無縫
   (Mobys Record : 0003 ; LP)


 全て「すげえ」に盡きる。CD化を冀求する壱枚。今年は此の音盤なくして語れぬ。8月20日に衝撃を受けた高瀬アキのピアノは、私にとつて恐るべき音樂體驗であつた。それを更にスパアクさせたのが『天衣無縫』。分析的にはとても書けないが、目眩くパワー、撓るやうな感性の訴求、そして無心な抒情、と日本びとがジヤズといふ語法に音を紡ぐ全てが此處にある。『 SHIMA SHOKA 』を取るか迷つたものゝ、まづは『天衣無縫』を。盤をお借りした四方さんに深謝。


(2) Misha Mengelberg : Who's Bridge
   Misha Mengelberg Trio (AVANT : AVAN038)


 契機(きつかけ)は前記8月20日にある。今年はミシヤ爺さんにも隨分ハマつた。元々フリー、ICPでも大活躍してきた人だが、セツシヨン人數の多寡に關係なく、恐るべき「人喰ひ」振りを發露。兎に角無類に面白い人だ。諧謔と仄かなパトスとぷんぷんする體臭に滿ち、狂歌の如き悦樂のソロ集『Impromtus』を擧げたい處だが、今年は取り敢へず、最初にインパクトを受けた『Who's Bridge』を。此はジヨオンズ、バロンとトリオを組んだ壱枚。天才的な崩しもよいが、だうしたら斯くも天空海闊たる諧謔が可能なのか、音樂とは將に人間の營爲なりと思ひを馳せる。そして私には、ミシヤ爺さんと作家トマス・ピンチヨンとが、同類の破格的知性と思はれる。


(3) Anthoni van Noordt : Tabulatuur Boeck Amsterdam 1659
   Odille Bailleux (org) (STIL 2510S77 : LP)


 今年はオルガンの古き名盤・名演の獲得多く、却々絞り切れぬ。古典期では、シヤピユイがサル=ユニオンで彈いた『ノエル集』、同じシヤピユイによる名演『テイトウルウズ集』、メリスの『バルバートル集』、モロ師による『Tientos y Glosas en Iberia』など。最後まで『Tientos y Glosas』か『ノールト集』か迷つたが、バユーを採る。CD化を切望。
 此のバユーのノオルト集は名盤と斷言しやう。バユーの演奏はチエムバロのやうに輕快、速いテムポで要らざる裝飾を一切つけず彈き切る。パツセエヂの愉悦、躍動する生命を付與するアーチキユレイシヨン、將に此等が作品たちの爲にあると云つてよい音色感、どれも優れてゐる。ノオルトの持つ眩さに溢れる生命力を存分に添へ、甘美な陰翳をも引き出し、見事な立體感を彈きあげてゆくに感動を覺ゆ。大林さんより頂戴した。深謝。

 餘談乍ら、先に擧げた『Tientos y Glosas』(Tempéraments)は、オルガンそのものも素晴らしいが、アンサムブル・ジル・バンシヨワの水準高いコオラスも特筆しておきたい。


(4) Franck : Intégrale de l'œuvre pour orgue
   Jeanne Demessieux (org) (FESTIVO : FECD 155/156 ; 2CDs)


 今年は特に浪漫派以降のオルガン作品に多々親炙した。中でもドライシによるランゴオの『Messis』と此の早逝のオルガスニト兼作曲家、ジヤンヌ・ドウメシユの特にフランク全集を擧げたい。ドウメシユの録音がFESTIVOから一氣に四種リゝイスされたが、このフランクはマルシヤル盤と竝び最高位に位置づけられるべき名演だらう。
 中でも「交響的大作」とコラアル第2番がよい。特にフレヱジングに注視すべし。大概のオルガニストが瞑想的な靄としてしまふが、彼女はもつと即物的に扱ひ、和聲がゆつくり姿態を變容させてゆく姿を執拗に描き込む。フランクらしひと我々が感じてきたものは、或いは錯覺ではなかつたか。
 フランク以外の録音では、リストとメシアンが見事。全般を通じ、ドウメシユは、理知的で澄明なレヂストレヱシヨン技能には薄ひが、破綻しかける快速テムポの押しまくり、尋常ならざるスタツカアト連射、異形なルバアトの使用など、テムポとフレヱジングの感覺は特絶してゐる。窮めてユニツクなプロポーシヨンを形成、其れが魔力のやうに感じる。よつて、ウイーアと比較しても詮なきこと。


(5) Leçons de ténèbres & Raga de la nuit avancée
   Brahaspati, Hussain, Ensemble Gradiva etc. (K617 : 017)


 民族音樂系では、今年はシブクマール・シヤルマ(サントウル)のCDを徹底して買ひ漁つた。是非シヤルマを、と思つたのだが、寧ろ此の東西交流の壱盤としたい。
 91年に佛國バロツク演奏家と印度國音樂家とが邂逅したconjunction & collaborationアルバム。インド側は、Sulochana Brahaspati、Zakir Hussain、Sultan Kahnなど豪華キヤスト、フランス側は、ensemble Gradiva(古樂)による。M.A.シヤルパンチエのルソンと、其れをベエスとした印度的即興。フセインのタブラ・ソロで幕開け、シヤルパンチエが2曲續いて、眞夜中のラアガへ。第3番ルソンでは完全なコラボレエシヨンへと至る。フセインのタブラがルソンのリズムにあはせて闖入後、サーランギが舞ひ始め、ルソンの主題に則つたブラハスパテイの即興が見事。特に終曲は、印式ルソン。彼女の聲は實に素晴らしい!





鈴木


1999年は、CDの購入枚数は多かったが、『これはいい!』と言うものが少なかった。手前のHPで、昔の録音の再聴取記録を主に始めてしまったため、新譜をあまり聞かなかったのがその理由だ。残念だなとは思う。2000年は、新しい録音を多く聞きたい、と思う。 以下の5盤の他には、HYPERION盤デュリュフレの『レクィエム』(オドンネル、ウェストミンスター大聖堂合唱団)の印象が鮮やか。大友良英やその他音響派の作品にも面白かったのはあったが、もう少しよく聞いてみたいと思う。

(1) ワーグナー:楽劇『神々の黄昏』全曲
   ハンス・クナッパーツブッシュ指揮バイロイト祝祭歌劇場 (TESTAMENT/SBT-4175)


 小生にとっては、何をおいてもこれが一番(^^)。もう、その録音テープの存在さえ絶望視されていたのに、自分の手に取ってみて、発売を実感したときには驚喜した。何より、音楽の造形が素晴らしく、数々の『神々の黄昏』を聞いてきたが、演奏の傷は多々あれど、全体を通して大感激した1セット。正に、『凄い!』のひとこと。音も、1951年録音と古いが、DECCAの録音チームが収録しただけに、素晴らしいと感じる。クナは昨年も再発が多く出たが、この『神々の黄昏』は初出であるだけに、価値は大きい。

(2) Boys Air Choir:Blue Bird
   (日本ビクター/VICP 60517)


 ボーイズ・エア・クワイアのアルバムとしては、第2集にあたる。第1集と第3集のボケボケぶりが信じられない、驚異の1枚。正に周囲の空気を清浄にしてしまうような、エア・クリーナーのようなCD。夏前に購入して、今でもよく聞く。このCDはヒットをねらったものではなく、日本人のプロデューサーによって方向付けられている。そのため、ボーイズ・エア・クワイアの他のCDや、シャルロット・チャーチのアルバムのように、耳に馴染んだ楽曲は皆無だが、むしろバラエティ路線を取らなかったことが成功していると言える。第4集は、是非この第2集の路線で録音されることを切に願う。

(3) ストラヴィンスキー:『ペトルーシュカ』
   オットー・クレンペラー指揮ニュー・フィルハーモニア (TESTAMENT/SBT-1156)


 長年お蔵入りしていた音源。なぜお蔵入りしていたのか、一聴して分かってしまうが、クレンペラー・ファンにはなにより嬉しい贈り物。クレンペラー最晩年の録音。これ以上に、くそまじめさがギャグに転化した演奏録音も希だろう。
 実際、クレンペラーは、この録音はいつ出るのか?とレコード会社に聞いたところ、『あれは出さない方が、先生(クレンペラー)のためにもいいんじゃないですか』と言われて、リリースをあきらめたそうだ。クレンペラーは、スコアを透徹した目で読み、その再現をスタジオ録音では徹底して行った人だが、最新鋭の『ペトルーシュカ』から聞き取れない、ジワ〜っとしたものがにじみ出ていて、何回聞いても飽きない録音である。
 同時期に、クレンペラーではベートーヴェンの非常に優れた第9ライヴもTESTAMENTから出たが、小生にはこのいったんお蔵入りになった『ペトルーシュカ』の方に、なぜか愛着を感じてしまう。

(4) バッハ:『パルティータ』他
   イローナ・ゼヴァレニィ(ツィンバロム) (HUNGAROTON CLASSICS/HCD 4004)


 通常楽器の演奏ではなく(何が通常か?)ツィンバロムによるバッハ。今年はけっこう多くのバッハを聞いたたはずだが、どれが一番良かったかと振り返っても、なぜかこのCDしか頭に思い浮かばない。刺激に富むと同時に、その長めのディケイ音の美しさは絶品。なお、演奏者の読み方にはまるで自信がない。

(5) Klaus Schulze:"X"
   (POLYDOR/POCP-2382/3)


 1978年にLPで出て、5年ほど前に国内で復刻されたもの。四国の中古屋でゲットした。これは、クラシックではない。ジャーマン・プログレの雄、クラウス・シュルツのライヴ2枚組。このエクスペリメンタルなドライブ感覚はなかなか凄く、クラウス・シュルツを再認識した。通常のロックでは全くないが、今でも現役とは凄いなぁ。





工藤


CDの購入点数は間違いなく増えているのだが、どうもここ1、2年、“ピン”と来る録音に出会えない。相変わらずショスタコーヴィチを中心とする一部のソ連物、ピアソラ系のタンゴ、弦楽四重奏を中心とする室内楽、といった辺りに購入範囲が限定されていることの弊害だろう。こうした閉塞感を打破するためには新規分野の開拓が必要だが、万一気に入ってしまったら…、これもまた地獄か(^^;;;。
さて、今年から少し力を入れ始めたのはブリテン。といっても購入点数自体は微々たるものだが。その中でなかなか楽しんだのが次のアルバム。

(1) ブリテン:室内楽作品集
   (Camerata CAMP-8003)


 BPOの首席オーボエ奏者シェレンベルガーを中心としたメンバーによる、珍しい編成の室内楽曲集。独特の音世界の美しさが素直に表出されていて、なかなかに楽しい。こういう音楽を聴いた後でケーゲル指揮の「戦争レクイエム」を聴くと、少年合唱の美しさに耳が行く。

室内楽といえば、大分前からチェックしていながらも入手していなかった

(2) モーツァルト:ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲集
   (HMF HMA 1901052)


 が、期待通りの佳演。パスキエ兄弟の息の合ったアンサンブルと、フランス流儀の音色が心地よい。特にブルーノのヴィオラの男っぽさはたまらない。実際に楽器を弾く人にとっては非常に有名なこの曲も、録音上はなかなか良い演奏に恵まれていない。このアルバムは、そうした不満を十分に解消してくれるものといえよう。ついでながら、ランパルと新パスキエ・トリオによるモーツァルトのフルート四重奏曲集(aura AUR 200-2)も、地味ながら無視できない。

今年は、ムラヴィンスキーで幕を開けた。きっかけは

(3) ショスタコーヴィチ:交響曲第8番ハ短調
   (BBC BBCL 4002-2)


 メインのショスタコは、晩年のPhilips盤は別格として、同時期の録音がBMG-Melodiyaから出た「ムラヴィンスキー・メロディア未発表録音VOL.2」に収録されており、そちらの方が上質の演奏なのだが、何といってもカップリングのモーツァルトの交響曲第33番がもの凄い。オーケストラというものの究極の姿と言ってしまっても良いだろう。単にアンサンブルが優れているだけではなく、音楽を構成する全ての要素がムラヴィンスキーの指揮によって完璧に統率されている様は、形容する言葉も見つからない。しかも、音楽に硬直したところは皆無。

ムラヴィンスキー関係では、上述した「未発表録音集」の特典盤としてショスタコーヴィチの交響曲第5番の世界初録音SP盤(1938年)の復刻を入手することができた。もっとも、これは内容的に資料としての興味の方が強い。同じ特典盤でも、ヴィデオ8本組の「ムラヴィンスキーの至芸」の特典ヴィデオは良かった。「ルスランとリュドミラ」序曲の猛烈な音楽が、あんな指揮から紡ぎ出されていたとは!

さて、今年も購入点数が一番多かったのは当然ショスタコーヴィチ関係。しかしながら、目ぼしいところは既に所有してしまっているため、必然的に駄演の占める割合が高くなってしまう。それでも見つけたら買い占めようとするのは、もはや“業”なのだろう…(^^;。
中では、

(4) ショスタコーヴィチ:ピアノ協奏曲第1番
   キーシン、スピヴァコフ/モスクワ・ヴィルトゥオージ (Melodiya MEL CD 10 00618)


 が最も掘り出し物だった。これは市場でよく見かけるRCA盤よりも古いライヴ録音。当時のキーシンの凄まじさが堪能できる。確かに若々しい音楽ではあるが、それは作曲者であるショスタコーヴィチが若かったからで、キーシンの演奏自体に対して天才“少年”などと評するのは失礼というものだろう。

他には、7月の来日公演が圧倒的だったフェドセーエフ/モスクワ放送響のアルバムも挙げておきたい。ショスタコーヴィチの交響曲第10番は、2種類入手することができたが(M-CLASSIC AN-121、RELIEF CR-991047)、旧盤の魅力を強調しつつも、総合点では新盤(RELIEF)を推薦するのは、当然だろう。最近の活動状況を見る限り、ロシアの指揮界ではフェドセーエフが一頭抜きん出ていると言わざるを得ない。スヴィリードフ作品集(autopan CSO001)に、彼らの勢いを聴くことができる。

最後の1枚は非常に悩んだ。タンゴ関係では小松亮太の「来るべきもの」(SONY SRCR2465)、ウーゴ・ディアスの「魂のタンゴ・ハーモニカ ブエノスアイレスの ウーゴ・ディアス」(Victor VICP60902-3)という、新旧の佳品があったし(特にディアスのハーモニカは絶品!)、大友良英の「山下毅雄を斬る」(P-VINE PCD-5804)も、山下の時代を感じさせない、どこか無国籍な音楽センスと、大友独自の音に対する感覚とが見事に調和(という表現はあまりにも似つかわしくないが)して実にスリリングかつエキサイティングなアルバムだった。

そうした対抗盤の中で僕は次の1枚を敢えて選んだ。

(5) ハイドン:弦楽四重奏曲集
   アルバン・ベルク四重奏団 (EMI TOCE-55070)


 何を今さら、と思われるかもしれないが、有名な作品76の中でも特に僕のすきなト長調とニ長調の2曲が収められていること、そして、このアルバムに聴かれる彼らの“聴かせる技術”が素晴らしいことの2点によって、今年の5盤のトリとしたい。

デビュー当初はその圧倒的な技量とウィーンの伝統を感じさせる音楽性とで出す録音全てが絶賛されていたABQは、普通の弦楽四重奏団が積み重ねられた歳月とともに(技術の衰えにもかかわらず)評価を上げていくのに対し、歳月を追う毎に(個人技術の衰えは明らかであるにもかかわらず)その技術的な完璧さの故に痛烈な批判の対象となりつつある。僕はABQの大ファンであるが、彼らの音楽を無条件に最上のものとする訳ではない。今年出たブラームスのクラリネット五重奏曲などでは、彼らの人工的な自然さがあまりにも前面に出過ぎているため、この演奏を同曲の代表盤とすることには納得できない。しかしながら、このハイドンでは彼らが長年目指してきた音楽が最良の形で発揮されているように思われる。ト長調の第1楽章冒頭、ニ長調の第2楽章を聴かれたい。彼らの技術的な潔癖さ、神経質な細みのある鋭い響き、細部まで徹底的に手の加えられた歌、こうした批判の対象になりやすい彼らの演奏様式は、このような音楽のためにあるのだ。

これを“室内楽の愉しみ”とは無縁のものとして批判するのは容易である。しかし、はっきり言ってしまえば“室内楽の愉しみ”というのは、実際に楽器を持って演奏に加わることのできる人の特権である。ただ聴くだけでその愉しみを感じようというのがそもそもおかしい。であれば、こうした愉しみとは別に“聴かせる室内楽”というものがあっても不思議ではない。このABQの演奏には、徹底的に聴かせようとするプロの技と意地がある。





野々村


 昨年は『Breeze』紙でレビューを書き始めたり、『ExMusica』誌から連載の依頼が来たりと、オフラインで文章を書く機会が増えたこともあって「奥座敷」にはあまり貢献できなかったが、ディスク購入枚数自体はさらに増えた。繁雑さを避けるため、コメントはベスト5のディスクだけとし、それ以外はタイトルとディスク番号のみ挙げる。

(1) Merzbow: New Takamagahara
   (ノルウェー[OHM] & Jazzassin records, JAZZ013)


 昨年一番多く聴いた音楽家は、間違いなくメルツバウ=秋田昌美である。彼の音楽には、ノイズというジャンルを聴き始めた当初から親しんできたが、大部の紹介原稿を書くことになり、せめてCDで聴けるアルバムだけでも集めようとした結果、昨年11月以降はほとんど彼の音楽ばかり聴くことになった。あらためて多くの発見があったが、中でも印象に残ったのが、1997年12月から1998年1月にかけて制作されたこの1枚。金属ノイズのフィードバックやロックの既成曲のカットアップなどのメルツバウの従来の手法に加えて、アナログシンセサイザーが多用されているが、あらゆる音響が必然性を持って存在し、間断なく攻撃を加えてくる音世界に身を委ねていると、そういう御託は全てどうでもよくなってくる。

 なお、昨年初めて聴いたメルツバウのディスクでは、以下のものも非常に良かった:

・Merzbow: Batztoutai with Material Gadgets (米RRR, CD-6)
・Merzbow: Metalvelodrome (Alchemy, ARCD-061/64)
・Merzbow: Venereology (米Relapse, RR 6910-2)
・Merzbow: Noisembryo (スウェーデンReleasing Eskimoo, IGLOO 001)
・Merzbow: Psychorazer (Kubitsuri tapes, SEX59015CD)


(2) Alban Berg: Wozzeck
   Ingo Metzmacher (cond.) (EMI, 5 568652)


 いわゆるクラシックでは、まずはこれ。ブーレーズの1966年の録音以降、リリースは多々あったが、良くなるのは録音状態だけという状況にはうんざりさせられた。「現代音楽演奏の空洞化」の一つの象徴とも言えるが、それから30年余りを経て、ようやく次のステージを画する録音が現れた。ライブ録音でここまで持っていくとは、さすがメッツマッハー。世評は内外とも芳しくないようだが、ベルクに19世紀音楽の名残を求める方がおかしい。

 これ以外のクラシック/現代音楽では、以下のものを挙げておきたい。あと、鈴木さんに頂いた Xenakis: Persepolis は、あらためて素晴らしかったです (^ ^;;)

・J.S.Bach: 6 Partitas; A.Vedernikov (Pf.) (BMG, BVCX-37001/2)
・Beethoven: 32 Variations etc.; S.Rachmaninov (Pf.) (Pearl, GEMM CD9457)
・A Window in Time; S.Rachmaninov (Pf.) (TELARC, CD-80491)
・French Orchestral Works; S.Chelibidache (cond.) (DGG, POCG-10204/6)
・Ravel: Daphnis et Chroe; M.Gielen (cond.) (ARTE NOVA, 74321 636412)
・Bartok: 44 Duets for 2 Violins; I.Bittova & D.Kellerova (Rachot Behemot, R-0011)
・Ferrari: Interrupteur, Tautologos3; K.Simonovitch (cond.) (Blue Chopsticks, BC1)
・Jo Kondo: Chamber Works; Ensemble l'art pour l'art (hat hut, hat[now]ART 110)


(3) 椎名林檎:無罪モラトリアム
   (東芝EMI, TOCT-24065)


 ポップスは内外とも決して嫌いではないが、こういうベストに残したくなることは滅多にない。だが、彼女だけは別格。購入直後から、矢野顕子に匹敵する才能がようやく現れたと確信して、その後1か月くらいはカラオケボックスをハシゴすることになった。打ち込みは彼女の充実したサウンドに全く追い付いていなかったが。海外の流行を周回遅れで追いかけてきた渋谷系も和製R&Bも、オルタナ歌謡曲と言うべき彼女の音楽が葬り去った。

 彼女のシングルには、アルバム未収録の佳曲がさりげなくカップリングされていることが多いので要注意。特に下記マキシシングルに併録された『眩暈』『リモートコントローラー』と『時が暴走する』のインパクトは、アルバム収録曲をも上回る。

・椎名林檎:ここでキスして。 (東芝EMI, TOCT-4133)
・椎名林檎:幸福論 (東芝EMI, TOCT-22011)


(4) I.S.O.: I.S.O.
   (英alcohol, ALISOCD)


 昨年最も活躍した音楽家は、疑いなく大友良英である。Ground-Zeroを解散し、インプロ界と訣別してからの模索が、ついに実を結んだ。I.S.O.は、一楽儀光、Sachiko M、大友による「音響的インプロユニット」。サンプラーにプリセットされた正弦波発振音を中心に、無機的な電子音の薄く広い音空間がゆるやかに表情を変えていく。Sachiko Mとのデュオでこの世界をさらに厳しく突きつめたのがfilament、この世界にポップな要素を加えていったのが山下ミッションシリーズ。ギュンター・ミュラーら、この方向性の先駆者たちとの即興もリリースされたし、この方向性で「作曲」した結果を衝撃的に提示したのが『Cathode』シリーズ、そしてついにソロ作品まで現れた。今年の大友はどこまで行くのだろう。

・Ground-Zero: Last Concert (AMOEBiC, AMO-VA-02)
・Otomo Yoshihide & Sachiko M: filament 1 (豪EXTREME, XCD 045)
・大友良英:山下毅雄を斬る (P-VINE, PCD-5804)
・metal tastes like an orange (AMOEBiC, AMO-VA-04)
・Otomo Yoshihide: Cathode (米Tzadik, TZ 7051)
・Otomo Yoshiide: Digital Tranquilizer Ver.1.0 (F.M.N., FSC-015)


(5) gastr del sol: upgrade & afterlife
   (米Drag City, DC90CD)


 「音響派」というジャンルは、今まではどうも巡り合せが良くなかったが、昨年は大友氏直々のアドヴァイスもあり、ようやく優れた作品を色々と知ることができた。ジャンル自体に良いも悪いもなく、大切なのは個々の音楽なのだとあらためて感じた次第。このディスクは、ガストル・デル・ソルの最高傑作と目される1枚。ノイズ、カットアップ、ギター弾き語りなど、個々の要素は従来の音楽から受け継いでいるが、自意識から距離を取った結果としての漂流感は、ケージの見果てぬ夢が遂に形を取って地上に現れたのかもしれない。

 これ以外に出会えた優れた作品には、以下のようなものがあった。便宜的に、メルツバウ以外のノイズ、大友以外の即興音楽、あるいはジャズのディスクもここで挙げる。

・D.Labrosse, I.Mori, M.Tetreault: Ile bizarre (加Ambiances Magnetiques, AM 055 CD)
・toshimaru nakamura & Sachiko M: un (meme, 011CD)
・pita: GET OUT (オーストリアmego, 029)
・C.C.C.C.: Rocket Shrine (creativeman disc., CMDD-00061)
・SUCH: The Issue at Hand (英Matchless Recordings, MRDCD38)
・Derek Bailey: Takes Fakes & Dead She Dances (英Incus, CD 31)
・Loren MazzaCane Connors: In Twilight (加Alien8 recordings, ALIENCD11)
・南博トリオ:3×1 (ewe, EWCD 0013)
・小松亮太&スーパー・ノネット:来たるべきもの (SONY, SRCR2465)



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