奧座敷同人 1998年の 5 盤





さてはて、本年もまた「奥座敷同人5盤」リリースの季節がやってまいりました。
新譜・旧譜に拘わらず、各人が昨年聴いた中でベストと思える音盤を僅か 5 盤にセレクトいただき、とりまとめたものにございます。この場をお借りしまして、同人の皆様には厚く御礼申し上げるとともに、蘊蓄深き各御仁のセレクション及びコメントひとくさりをご快読いただければ幸甚にございます。
なお、執筆者名をクリックすると記事に飛びます。

店主鞠躬




































斉諧生


 話題盤でも聴いていないものは数知れず(メジャー・レーベルから出た大曲に多い)、とても一般的なチョイスではないのだが、今年は特に「お薦め」の色彩の強い選択をしてみた。
 したがって、本来なら上位にノミネートすべきクレンペラー(EMI)やセル(Orfeo)のライヴは、既に十分話題になっていることもあって、選外とした。なお、いわゆる海賊盤やCD−Rは完全に対象外。購入すらしていない。

(1) ハンス・ロスバウト(指)ベルリン・フィル
  ハイドン:交響曲第92・104番 (DGG 457 720-2)


 今年随一の発見、ハンス・ロスバウトとの出会いとなった盤。
 これは掛け値なしに最高のハイドン演奏。堅固な造形とハイドンの愉悦の両立、雑にならないスピード感と弾みのある音楽。「オックスフォード」のフィナーレなど、誠にプレストの速さながら、アンサンブルは水も漏らさず、それでいて、なんと美しい、なんと愉しい音楽なのだろうと思わせる。
 オーケストラも、まだフルトヴェングラー時代の風を色濃く遺している頃。弦合奏の響きの美しいこと! フルート(たぶんオーレル・ニコレだろう)を筆頭に、オーボエ・ホルン等、管楽器の音色・表情も気高い。
1956〜57年のモノラル録音だが、音質は極上、分離がよいので下手なステレオ録音より美しい。なお、同じOriginalsシリーズで出ているシベリウス;交響詩集(DGG 447 453-2)もお薦めしておきたい。

(2) アルト・ノラス(Vc)アリ・ラシライネン(指)ノルウェー放送響
  ショスタコーヴィッチ:チェロ協奏曲第1・2番ほか (FINLANDIA 3984-21441-2)


 ノラスのショスタコーヴィッチ演奏は、チェロソナタの録音に作曲者が感激のメッセージを寄せるなど、定評があるところだが、待望の協奏曲録音がリリースされた。
 艶のある高音から寂びのきいた低音まで幅広く美しい音色、ピツィカートに込められた奥深いニュアンスから凄まじいスピード感と息をもつかせぬ迫力まで、強烈な表現力・訴求力。現役最高峰のチェリストの一人だと思う。
 オーケストラの表現力と録音の冴えに、今一つの感はあるが、ただただ、独奏の素晴らしさを聴いていただきたい。
 また、数年前の発売ながら今年やっと聴いた(^^; ベートーヴェン;チェロソナタ第1番(FINLANDIA 4509-98887-2) も、素晴らしい演奏だった。序奏から伸びやかに朗々と歌い、アレグロに入ってからは、誠に英雄的な音楽。作品5であろうが何だろうが、これがベートーヴェンだ!という演奏で、聴いていて本当にワクワクしてしまう。何て素晴らしい音楽なのだろうと思わせてくれる、最高の独奏だ。

(3) エサ・ペッカ・サロネン(指)ロスアンジェルス・フィルほか
  マーラー:交響曲第4番 (Sony Classical SRCR8917)


 奥座敷試聴会でラトル盤の比較用にと聴いた演奏だが、思いの外に素晴らしく、すっかり御本尊を霞ませてしまった。今年発売のものではないが、敢えて推す次第。
何よりも美しい響きが一貫、煽ったり燥いだりして楽器に力み・エグみのある音を出させることがない。マーラー・マニアには嫌われるかもしれないが、斉諧生的には高く評価する。
 とはいえ、けっして微温的な演奏ではなく、第1楽章冒頭、鈴のリズムからヴァイオリンの旋律が出るところの巧妙な処理、第2楽章のトリオへの絶妙な入り方、第3楽章後半の浄福の世界、第4楽章でソプラノ独唱(バーバラ・ヘンドリクス)を抑えたバランス感覚等、非凡な感覚を煌めかす。
 なお、今年聴いたサロネンでは、スピード感溢れるストラヴィンスキー:「ペトルーシュカ」(Sony Classical SRCR9383)、精密な描写が冴えるバルトーク:「弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽」(Sony Classical SK62598)も強くお薦めしたい。

(4) ジゼル・ベン・ドール(指)ロンドン響ほか
  ヒナステラ;「パブロ・カザルスの主題によるグローセス」ほか (KOCH 3-7149-2H1)


 今年新たに出会った作曲家で最も填ったのがヒナステラ。とりわけ標記の曲は感動的だった。
 第1楽章で金管が吹く葬送行進曲風の沈痛な主題もいいし、終結近くでのチェロ独奏の哀感もホロリとさせる。第2楽章の、美しく、しかし哀しい音楽の素晴しいこと!透明で、コスミックというのか、何か宇宙的な趣がある。
 第4楽章では、ヴァイオリンの高音域や木管が鳥のさえずりを模す中で、チェロがユニゾンで「鳥の歌」を奏する。余分な表情をつけずに真っ直ぐに歌われる「鳥の歌」の崇高なこと!これに自然そのものの音が絡む、その対比からは浮び上がるのは、「永遠」という観念。何とも不思議だが、これが音楽の玄妙さなのだと思う。
 なお、バルトーク;ディヴェルティメントを想起させる名品、「弦楽のための協奏曲」を収めたトゥロフスキー(指)イ・ムジチ・ド・モントリオール(CHANDOS CHAN9434)も併せてお薦めしたい。

(5) セミー・スタールハンメル(Vn)ロヴ・デルヴィンイェル(P)
  「スウェーデンにおける世紀の変り目 1900 T」 (nosag CD024)


 全く未知のヴァイオリニストだが、ストックホルム王立歌劇場管のコンサートマスターだそうだ。音は綺麗だし、センスも抜群。特に、北欧音楽独特の不安定な和声の活かし方が上手い。収録曲は、ヤルネフェルト;「子守唄」以外、初めて聴くものばかりだが、冒頭のアルヴェーン;「眠れる森」をはじめ、抒情が胸に沁みる佳曲揃いである。その他、アウリン、ハクイニウス、ラングストレムらの小品を計17曲収めている。
 録音も上乗。ディトリック・デ・ゲアールのカスタム・メイド・マイク2本によるワン・ポイント録音で、自然な響きと音の伸びが素晴らしく、オーディオ・ファイルには是非盤であろう。
 なお、近々、第U巻が出る。これにはステンハンマル;「2つのセンチメンタル・ロマンス」が収録されているとのことであり、大いに期待したい。





浮月斎


 昨年は珍しくオケばかりだったが、これが例年普通。今年は古い盤を様々ゲットできたので、その意味では収穫多し。なお、セルのザルツブルクはベートーベンの#5を以前にROCOCO盤で聴いているので、外した。

(1) Tournemire : " Cycle de Noel" op.55 ,"Cycle de Paques " op.56 from "L'Orgue Mistique"
   George Delvallee (org) (ACCORD 205342 and 206002 各3CDs)


 デルバレのトゥルヌミール「L'Orgue Mistique」全曲録音が始まった。これまでのリリースはop.55〜57のうち、op.55と56である。ARIONでの抜粋盤に比べて、昂揚感はやや物足りなく感じる部分もあるが、非常に厳格・緻密な味わいが深まった感がある。トゥルヌミールを愛し、精査した成果が見事に表現されており、深く冥想的な響きにデルバレの明察を聴く。

(2) J.S.Bach : Goldberg Variations Scott Ross (cem) (ERATO 3894 20972 2)

 ロスの珍しいライブ盤。ライブの瑕疵もなく、程よい緊張感と音楽の意志的推進力の力勁さに溢れている。EMI盤が練りに練つた洗練窮まるタッチで、チェンバロの表現可能性を追求した妙味とすれば、この盤は音楽に没入していくロスの率直で熱い姿を彷彿させる。ロスの技芸の精華がここにある。ロスの場合、ホツトに研磨された調和美的感性の所産であり、マニエリスチックな気概とは趣きは全く逆だろう。

(3) Grigny : Livre d'Orgue Lionel Rogg (org) (EMI C167-12887/8 : 2LP)

 ロッグといえば、ブルックナーの8番をオルガンで弾くという莫迦げた録音が近況で悲しいところだが、ロッグやボヴェといったスイスのオルガニストは、小気味よい演奏でバロック録音の名手であった。ボヴェもジャン・アランなど近現代作品に比重が移り、ともに残念である。このグリニーは、彼がフランスHMに録音したアルレスハイムのジルバーマン・オルガンを使ったバッハ全集に次ぐ名録音と見る。ピティヴィエのイスナール−カヴァイユ=コル・オルガンを使っている。最近、古楽の浸透したグリニーは比較的中型オルガンで弾かれるため、この壮麗かつ明晰な響きは、サン=マクシマンでのイゾアールの録音と並ぶ佳演と見なされるべきである。

(4) J.S.Bach : Teil III der Klavier-Ubung  Ton Koopman (org) (TELEFUNKEN 6.35375 : 2LP)

 コープマンの全盛期の録音の一つ。オットーボイレン修道院のリープ製作の三位一体オルガンによる録音。70年代に録音されたものとしては、スウェーリンク全集に並ぶ名技・名演である。後年のように、全く呆けた愉悦感ばかりが先行することなく、作品の意味を鋭く捌きながら、しかし爽快に切り込む。コラールについては、さすがにヴァルヒャには適わないが、清澄な小宇宙を剔抉している。こういう録音がなかなかリCDイシュウしてこないのが残念。

(5) Jean Fournet SUPRAPHON Recordings 1 - 4
   Jean Fournet(dir) Czech Phil. etc. (SUPRAPHON COCO-80865-8)


 今年のオケものはこれだけ。フルネのスプラフォン音源集の復刻4枚。彼は本然的に知性派指揮者であると聴けるが、特に1集のドビユツシイと3集のフランク「プシシェ」が中でも見事なできばえと思う。1集のドビユツシイでは、中間色のパレツトに乏しく、また明晰すぎるかもしれないが、一切のケレン味のないこの妙味を特筆したい。3集のフランク「プシシェ」は、翳りや沈鬱な情念の高まりが、激しさではなく、テンションの高さへと置き換えられているのが妙味で、端正かつ清潔な情感が好ましい。さらにフルネのコーラスの手腕もなかなか見事。





鈴木


 今年は昨年に引き続き、なんだかんだ言ってもブルックナーばっかり聞いていたような気もする。本当は室内楽を盛大に入れたいのだが、結局ブルックナーばっか(^ ^ ;。なお、クナとクレンペラーにも優れた復刻が多かったが、そればっかりになる可能性もあるので外した。でも、結局ブルックナーばっか・・・。

(1) ブルックナー:交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」
  ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送交響楽団 (The Bells of Saint Florian/AB-12)


 これは大変に熱い大名演だ。火照るような情感を持つ「ロマンティック」だが、恐らく最高の「ロマンティック」ではないかと思う。ブルックナーファンは草の根を分けても探すべき録音。

(2) ブルックナー:交響曲第9番イ長調
  スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ指揮ミネソタ管弦楽団 (REFERENCE RECORDINGS/RR-81CD)


 斉諧生さんのログを見るまで食指が動かなかったCD。これもまた優れたブルックナーだ。特に第3楽章など、非常に高いクオリティで驚いてしまう。初めて聞いたとき、段々と身体が熱くなっていったことを思い出した。正規音源なのに、なぜこれが国内盤で出ないのか分からない。

(3) ブルックナー:交響曲第6番イ長調・交響曲第8番ハ短調
  ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送交響楽団 (METEOR/MCD-015/6)


 第6番だけ推薦。第6番は最近、ティントナーやスクロヴァチェフスキの廉価盤での良い録音が目に付いたが、このクーベリック盤は別格。とにかくハイテンションの第6番が聞ける。

(4) ブルックナー:交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」
  ギュンター・ヴァント指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 (BMG RCA/09026 68839 2)


 今年のレコードアカデミー賞らしいが、クーベリックとは別の個性ながら、息の長いクレッシェンドが聞ける。ヴァントのブルックナーは、小生イマイチ納得できないでいるが、これは素晴らしかった。

(5) ベートーヴェン:エグモント序曲、ピアノ協奏曲第3番、交響曲第5番
  エミール・ギレリス(p)
  ジョージ・セル指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 (ORFEO 'DOR/C 484 981 B)


 唯一ブルックナー以外(^ ^)。これだけ構築感があり、しかも驀進するベートーヴェンは今やなかなか聞けなくなってしまった。ベートーヴェンの音楽が持つ圧倒的なエネルギーを解放しきっている。





佐々木


(1) Beethoven : Piano Sonata No.29 op.106 Emil Gilels (p) (MELODIYA / 74321 40121 2)

ギレリスが亡くなる前年(1984)のモスクワでのライヴで、DGのスタジオ録音(1982)とは比較にならないくらい素晴らしいハンマークラヴィーア!ライヴならではの傷はあるけれど、そんなことは全く気にならない。すべてのアーティキュレーションが生き、深い感動と陶酔に満ちた演奏で、まるでオーラが見えるよう。この長大なソナタも、聞き惚れているうちにあっという間に終わってしまう。

(2) Beethoven : Piano Concerto No.4 in G op.58
   Wilhelm Backhaus/Bohm/VPO (MADRIGAL / MADR-202)


 演奏年の割に、録音が非常に悪いのは残念ながら、ライヴでのバックハウスの凄さをたっぷり味わえる。異常なまでの緊張と高揚に包まれた演奏で、何度聴いても飽きがこないし、ベーゼンの音色、VPOのアンサンブルも共に素晴らしく、音色の味わいにおいても出色。

(3) Schubert : Piano Sonata D.960 Mariya Yudina (p) (TRITON-meldac MECC-26014)

 ロシア系ピアニストによる"闇のシューベルト"のルーツともいえる。頻繁なギアチェンジを行いながらも、息の詰まるような緊張感が持続する、全く独創的な世界で、部分部分の描き分け、場面転換の妙は全く素晴らしい。ユージナの凄さを十二分に体験できる。

(4) Mozart : Complete Sonatas for fortepiano Tuija Hakkila (fortepiano)
   (FINLANDIA WPCS-5796/5801 (0630-17697-2))


 鋭いタッチと激しいアゴーギク、最弱音から重厚で強烈なフォルテまでを駆使した切り込みの深いモーツァルトで、しなやかさにも欠けない。フォルテピアノの音色の妙味のみならず、モダンのピアノでは決して聴けない表現を聴けるという意味でもたいへん面白い。

(5) Poulenc :Sacred Choral Music
   Netherlands Chamber Choir / Eric Ericson (GLOBE / GLO 5185)


 来年が生誕100年という事もあり、続々と組物が出ているプーランクだが、これらのア・カペラのような静謐さに満ちた音楽の素晴らしさを知ったのは今年の大きな収穫。プーランクについては色々集めつつ、まだあまり聴けていない状態ながら、この盤はプーランクを集めはじめるきっかけになったという意味で、たいへん印象深い。





山下


(1) Mendelssohn : Symphony No.3
   Orchestra of The 18th Century / Frans Bruggen


 ブリュッヘンの力量というより、オケの響き自体がこの演奏の魅力となっているように思える。今年は、クレンペラーレガシーやミュンシュの限定版でもこの曲が発売されていてよく耳にしていましたが、なんとなく物足りなさを感じていてこの演奏を再認識した。演奏の色艶という点では控えめだが、全体を通じた完成度はすばらしい。

(2) Mahler : Symphony No.5
   Royal Philharmonic Orchestra / Daniele Gatti


 熱演という言葉をよく耳にするが、それにぴったりという演奏に出会った。冷めた目で見れば演奏の傷も多いが、余り気にならない。きれいにまとまっていない荒削りさがそれを補って余りある逸品。

(3) Beethoven : Symphony No.9
   Orchestra of The 18th Century / Frans Bruggen


 師走に聴くお祭り気分の第9が耳に入ってくる時期ですが、そういったアプローチとはひと味違った引き締まった感じの演奏に好感が持てた。5盤の中には悩んだあげく取りあげなかったが、セルの5番といい余計な装飾を削ぎ落とした無駄な弛緩のない演奏はどれも魅力的だった。シンプルさに新鮮さを感じた1枚だった。

(4) Mahler : Symphony No.2
   Chor und Symphonie-Orchester des Bayerischen Rundfunks / Otto Klemperer


 発売直後に買いに行って1枚ものだったのでちょっと意外に感じた記憶がある。やりすぎて肥大化した演奏が多い中、逆に印象に残った演奏。細部の表現が云々ではなく、構成の見事さがすばらしかった。個人的には、上記のガッティが振ったら面白いのではと密かに期待しているが・・。

(5) Berlioz : Symphonie fantastique
   Paris Conservatoire Orchestra / Ataulfo Argenta


 いわゆる名演という類の演奏ではないでしょう。奥座敷でパレーの幻想を聴いていたときに比較に聴いてみて衝撃を受けた。この曲に対して今まで持っていたイメージが見事に破壊されてしまった。優雅でいたって明朗な表現ががとても新鮮だった。





大黒


(1) マーラー/交響曲全集(大地の歌を含む) テンシュテット/LPO

 わたしは、1998年はテンシュテットが亡くなった年として重要であると認識している。マーラーに関しては、ラトル、ブーレーズはじめ、ろくな新譜が出ない現況ゆえ、再発ではあるが、この追悼盤をあげないわけにはいかない。とにかく、マーラーは、テンシュテット盤がいちおしである。今年も買い足してしまったので、この全集がうちには3セットくらいある。テンシュテットの読譜能力は素晴らしいのひとこと。

(2) マーラー/交響曲第1番 テンシュテット/CSO (1990 LIVE)

 上と同じ意味合いで、これも。First Classics盤も良いが、このライブはまことに力の入った素晴らしい演奏である。長らく廃盤になっていたCDで、小生の家には、このCDが新旧あわせて3枚(リスニングルーム用、車載用、予備)ある。マラ5ライブ/LPOも同様に比類なき、感動的な演奏である。また、NYP自主制作盤のマラ5も良かった。

(3) ショパン/ピアノ協奏曲第1番ほか アルゲリッチ/ノヴァーク指揮/Sifonia Varsovia(1992 LIVE)

 まさに凄演である。燃えるマルタ、ここにあり。自他ともに認めるマルタ・ファンとして、これをあげないわけにはいかない。マルタとは彼女の若き日以来、何度か会話させてもらっているが、今年も大阪公演のとき、終演後にホテル・プラザの廊下で会話と握手ができた。ちなみに、5月のこのコンサート、彼女も御機嫌で、アンコールでは、デュオに加えてベートーヴェン/ピアノ協奏曲第2番の終楽章をもう一度まるまるやってくれた。

(4) チャイコフスキー/ピアノ協奏曲第1番、シューマン/ピアノ協奏曲ほか アルゲリッチ/Kord指揮National Philo-Warsaw (1980 LIVE)

 もうひとつのマルタ/ワルシャワ・ライブ盤、これまたすさまじい演奏である。アンコールのスカルラッティほかの小品がまた秀演である。ちなみに、わたしはフォルテピアノの音色が大嫌いで、フォルテピアノ盤の演奏はまず聴かないことにしている。ピアニストでは、概ね彼女とギレリス、アンダ、グルダ、ミケランジェリ、フランソワあたりが好きで、ピリス、ペライア、ブレンデル、アシュケナージなどが嫌いである。

(5) ベートーヴェン:エグモント序曲/ピアノ協奏曲第3番/交響曲第5番
   エミール・ギレリス(p)
   ジョージ・セル指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 (ORFEO 'DOR/C 484 981 B)


 VPOを熱くドライブしきったセルに敬意を表して。最近のVPOの日本公演では毎年失望させられてきたが、この演奏ではVPOの底力が垣間見える。やはり、VPOのパフォーマンスを左右する因子として、指揮者の力が大なのであろう。Pコンはギレリスが素晴らしい。彼の場合、強靱なタッチが強調されがちであるが、それのみでなく、むしろ彼の美点は弱音の美しさ・表現力にある。カーゾン/クーベリック(Audite)のベートーヴェン/ピアノ協奏曲第4、5番は世間で評判が良かったようだが、カーゾンのピアノがいかにもまずく、私にはどこがいいのかわからない。カーゾン程度のピアニストは、世の中に吐いて捨てるほどいる。オケのサポートにもとりたてて見るべきものはない。カーゾン/クーベリックのモーツァルト(Audite)も出たが、アンダの弾き振りの方がよほど秀演である。
 あと、今年でた海賊盤にベートーヴェン/ピアノ協奏曲第4番/ポリーニ・イッセルシュテット/BRSO/1973(JOYCD-9009)がある。わたしは、元来ポリーニがきらいであるが、これは良かった。少しポリーニを見直した。しかし、なんといってもベートーヴェンのピアノ曲では、やはりギレリスが素晴らしい。

番外

 ・ビゼー/カルメン全曲/C.クライバー/ウィーン国立歌劇場/オブラスツォワ/ドミンゴほか(1978、LIVE)

 もちろん、Exclusive盤ではない。CS/クラシカ・ジャパンからCD-Rに焼いた自家製CDである。このカルメンはいい。ウィーン国立歌劇場もクライバーの指揮ならばまじめに弾く、ということがよくわかる。そう、小生もCDレコーダーを買ってしまったのである。





野々村


 今年は非常に豊作だったので、とりあえず5+1組選んでおいたものの、これらは例年なら1位になっておかしくない水準のディスクばかりです。本文中では例年の5位相当まで挙げておこうとして30組まで絞りましたが、これ以上減らすのは無理。

Part 1: クラシックの新規発売

 アーノンクールやラトルがかつての鋭さを失い、クレーメルやアファナシエフもすっかり自分を見失ってしまった今日、クラシックの新録音に期待するものなどないので、専らの興味は、新たに発見された過去の音源ということになる。
 実際、比較的最近(1991年だが)の録音で、今年買った中で印象深かったのは、
・Chopin: 24 Preludes; Liszt: Sonate
  (G.Pludermacher; LYRINX, LYR 111)

だけだった。これは、両作品のロマンティシズムをすっぱり切り捨て、構造の強靱さを浮かび上がらせた*現代弾き*プリュデルマシェらしい解釈で見事だ。
 近年ようやく正当に評価され始めたカーゾンの未発表録音が幾つか出ているが、
・Beethoven: Piano Concertos #4,5
  (C.Curzon&R.Kubelik/Bayern radio so.;audite, 95.459)

が、群を抜いて素晴らしい出来だった。クーベリックの棒は雄大そのものだし、カーゾンのピアノも生気と緊張感に満ちていて、両作品の最高の演奏の一つだ。
 しかし、衝撃的な未発表音源集成としては、やはりDENONのヴェデルニコフの放送用録音集を超えるものはない。このシリーズのドビュッシー、スクリャービン、ヒンデミットなどの近代作品集は発売後すぐに買って、ポリフォニーの表現に卓越した音楽性は十分知っていたが、あらためて買いまくるきっかけは、
・Ravel: Le Tombeau de Couperaine; Franck: Prelude, Fugue et Variation etc.
  (A.Vedernikov; DENON, COCO-78244)

だった。『クープランのトンボー』が素晴らしいのは、彼の芸風からして予想通りだが、フランクの『前奏曲、フーガと変奏曲』の、無理やりポリフォニーには収まらないロマンティシズムの豊かな表現に、これなら古典もいけるはずだと、収集を再開した。今年に入ってから発売されたのは、協奏曲や室内楽で、
・Mozart: Piano Concerto No.15,23
  (A.Vedernikov&G.Rozhdestvensky/USSR radio so.; DENON, COCO-80668)

 モーツァルトのソナタはやや物足りなかったものの、協奏曲での彼は実に素晴らしい。その精神性の高さは、カーゾンに匹敵する。ロジェストヴェンスキーの指揮は、カーゾン盤のブリトゥンやケルテスとは比べるべくもないが、余計なことをせずに淡々と伴奏を付けており、ヴェデルニコフのソロを楽しむ邪魔にはならない。auditeから発売されたカーゾン&クーベリックのライブも買ったが、こちらはクーベリックの棒が出過ぎという印象で、私の好みではない。
・Schoenberg: Pf. Concerto, 3 Klavierstucke; Stravinsky: Mouvements
  (A.Vedernikov&I.Blazhkov/USSR radio so.; DENON, COCO-80854)

 シェーンベルクの協奏曲とストラヴィンスキーの『ムーヴメンツ』がカップリングされた1枚も、彼の現代音楽の録音は当局の意向で皆無なだけに、価値は高い。特に、シェーンベルクの協奏曲の濃さはグールド盤をも凌ぎ、ショパンの録音をトンデモ盤にしてしまった、彼の解釈のディープな側面が活かされた録音である。『ムーヴメンツ』まで同じ路線の解釈なのには、疑問も残るが。

(1) Beethoven: Klaviersonaten #30,31,32 (A.Vedernikov; DENON, COCO-78749)

 彼のCDは大体買ったが、中でも比類ない完成度を持つのがベートーヴェンの録音で、特に今年の1位となった最後の3つのソナタ(発売は1995年暮れ)は、これまでに聴いてきたグールド、ミケランジェリ、ポリーニ、ギレリスなどの優れた録音も、これらの作品の美質の一部を切り出したものにすぎなかったのだと教えてくれた。彼の師ネイガウスは、彼をリヒテル、ギレリス、ザークと並ぶ最も優れた弟子の一人に挙げたそうだが、このシリーズで明らかになった全貌は他の弟子をはるかに凌いでおり、この言葉はいずれ忘れられよう。


Part 2: 即興音楽とその周辺

 クラシックが(それに伴って現代音楽も)すっかり堕落した今日、私にとってもっとも楽しめるジャンルは即興音楽である。もし、10組まで選べたら、大半は以下に挙げるディスクが占めていたはずだ。このジャンルでは多数の日本人ミュージシャンが国際的に活躍しているのも嬉しい。そこでまず挙げたいのが、
・Derek Bailey: improvisation (CRAMPS records, CRSCD 062)
である。1975年の古典的名盤の久々の再発売だが、ベイリーのギターがかくも多彩で軽やかな表現を持っているとは思わなかった。これまでも、それなりに集めてはいたものの、ウェーベルンの模倣という偏見を捨てきれなかったので、この1枚でベイリーに惚れ直した。
 同時期に、ロックから即興音楽に接近した
・This Heat: this heat (THESE records, heat 1 c.d.)
も、その技術の高さも含めて、非常に興味深い1枚だった。ブリティッシュ・パンク第2世代は、PILやポップ・グループ止まりではなかったんだなあ!
 そして、以下6枚はいずれも日本人ミュージシャン絡みで、まずは灰野御大の
・灰野敬二:こんなになってもまだ考えている (徳間ジャパン, TKCF-77023)
が素晴らしかった。ハーディ・ガーディを用いたソロ即興で、80分近くかけてゆっくりクライマックスに至る壮大な音楽である。ステージアクションが全ての*ビジュアル系*の人、という偏見はここ1、2年のリリースで完全に払拭された。昨年11月の神戸FBIでのライブも感動的だった。灰野さん関係では、
・Keiji Haino / Loren MazzaCane Connors: Vol.2 (Menlo Park, 7005)
にも、大いに満足。どんな共演相手とも違和感を発散させ続けてきた灰野さんだが、近年世界で話題のブルースギタリスト、ローレン・マザケン・コナーズ相手には全てが通じたのか、兄弟のように息の合ったプレイでノスタルジーを結晶化させた。陳腐だが、「美しい」としか言いようがない。
 次は梅津さんで、
・Umezu Kazutoki: Dancing Winds (SAMSUNG Music, SCO-138CSS)
は、金石出ら韓国東海岸のシャーマンたちとの共演。リリースもあちらのレーベルから。日本フリージャズ+韓国シャーマンミュージックというアルバムを梅津さんは何枚も出しているが、これはジャムラーディン・タクマのベースを加えたのが大成功。頑固に黒人音楽のスタイルを守るベースの異化効果は強烈で、東アジア人どうしの連帯という幻想を超えた剥き出しの衝突は実に刺激的。
・姜泰煥 with Ned Rothenberg & 大友良英 (ちゃぷちゃぷレコード, CPCD-001)
は韓国ジャズだが、姜泰煥の循環呼吸微分音サックスは強烈無比で、正面から対決を挑んだネッドは爆死。大友さんは持続ノイズ系音楽ばかりをターンテーブルに乗せるという裏技で対抗したが、姜の引き立て役以上にはなれなかった。
・Altered States: 4 (ZENBEI records, ZEN-003)
 また、忘れたくないのが、日本最強のロックトリオ、アルタード・ステーツのNYニッティング・ファクトリーでのライブ盤で、超絶技巧の楽器演奏だけでなく、ヴォーカルも加えた即興は圧巻。こういう音楽も、いまや日本が世界一。
・Tetsu Saitoh Tango Groove Collective: Ausencias (JABARA, JAB-07)
 そしてこれは、斎藤徹が小松亮太、黒田京子らを集めて結成したタンゴバンドによるピアソラ作品集。ピアソラ自身の録音から起こした譜面に独自の即興的解釈を加えるという、クラシック奏者の出版譜を表面的になぞっただけのうんざりするようなお仕事の山とは対照なアプローチで、カヴァーはかくありたい。

(2) Joelle Leandre: No Comment (Red Toucan records, RT 9313-2)

 かくも豊かな収穫の中で、今年の2位になったのが、レアンドルのベースソロ即興を収めたアルバムで、彼女の東京公演(梅津さんとのデュオ)でようやく入手。倍音奏法を主体にした、禁欲的だが凄まじいテンションのプレイが連続する圧倒的な録音で、近年の彼女の絶好調がそのまま詰め込まれている。


Part 3: いわゆる現代音楽

 お次は、現代音楽の名曲名演集(とは言っても、6枚中3枚は電子音楽だが)。パリでやっと入手できたディスクも2枚あり、例年よりは豊作なのだが、どのディスクも聴きものは1960/70年代の作品ばかりなのが、何かを物語っている。
・B.A.Zimmermann: Requiem fur einen jungen Dichter (M.Gielen/SWF so.; SONY, SK 61995)
 まずは、『ヘイ・ジュード』の引用部分にオリジナル録音を使ったため廃盤になったと思われる、ギーレンがザルツブルクで振った『ある若き詩人のためのレクイエム』から。これが超名演。戦後の25年間を70分に凝縮したB.A.ツィンマーマンの最高傑作だが、こんな迫力ある素晴らしい音楽だとは思わなかった。日本では一瞬で消えたこのディスクがまだ健在とは、さすが反英米のフランス。
・Xenakis: Electronic Music (EMF, CD 003)
 次は、クセナキスの電子音楽作品集。アナログ電子音楽は、クセナキスが最も創造性を発揮した分野なのに、いっこうにCD化されなかったが、ついに渇きが満たされた。『東洋−西洋』や『ボホール』がようやく聴けたのは嬉しいが、彼の最高傑作『ペルセポリス』の早急なCD化を望みたい。『響・花・間』も、国内盤よりずっと良い音質で聴ける。しかし、デジタル電子音楽『S-709』は、優れたノイズ音楽を聴いてきた耳にはゴミ同然で深く失望した。彼も老いた。
・Luc Ferrari: Presque rien (INA/GRM, MUSIDISC 245172)
 そして、フェラーリの代表作『ほとんど何もなし』シリーズに『音楽の舗道』がカップリングされたCDも、パリでようやくゲット。知っている作品が中心だが、通勤電車の中で気楽に聴けるようになったのはめでたい。未聴の第2番は、第1番・第3番とは対照的な、雷鳴や発振音の入ったダイナミックな音楽。
・Ferneyhough: Solo Works (Members of Elision Ens.; ETCETERA, KTC 1206)
 今回選んだ現代音楽ディスクの中で一番作曲年代が新しいのがこれで、ファーニホーの才能が最も発揮された、1970年代のソロ作品が中心。それ以降の作品も収められてはいるが精彩を欠く。スパルナーイ、アルトーら初演を担当した現代音楽のヴィルトゥオーゾたちの演奏のような華やかさはないが、裏返すと譜面に忠実で堅実な解釈でもあるわけで、作曲者の好みはこういう演奏らしい。
・Oliveros: Electronic Works (Paradigm discs, PD 04)
 未知の音楽でショッキングだったのは、オリヴェロスの初期電子音楽の数々である。バビットやスボトニックらアカデミック電子音楽組と使っている音源は同じだが、執拗な持続と大胆な切断、そして即興的なレコードのカットアップで、30年以上を経た今日でも全く古びていない傑作の宝庫だった。この音楽は、ある面ではシュトックハウゼンの電子音楽をも超えていると思う。

(3) Kagel: Morceau concours, Phantasie, Atem, Improvisation ajoutee
   (J.Vogelsanger/Dusseldorfer Kammerchor et al.; koch, 3-1551-2)


 これらを押しのけて今年の3位になったのは、晩秋に発売された、カーゲルの初期室内楽作品集だった。見た目はトランペットデュオだったりトロンボーンソロだったりオルガンソロだったりするが、その実体はステージアクションやノイズや環境音が渦巻く気違い音楽で、特にオルガンソロの2曲がすさまじい。この『加えられた即興』を聴いた時、ジョン・ゾーンは音楽家になろうと決意したと聞くが、結局ゾーンはここまで狂うことはできなかったと感じる。


Part 4: クラシックの復刻盤

 ここでクラシックに戻って、今度は過去の名録音の復刻盤。長らく冷遇されてきた録音が中心。新録音をフルプライスで売って目先の利益を追うより、これらの永遠の価値を持つ音源を息長く売ってクラシックファンを増やすのが本筋だと思うのだが。手持ちの録音を優れた復刻で買い直したものは入れていない。
・Berlioz: Sym. fantastique (P.Paray/Detroit so.; Mercury, 434 328-2)
 まずは、パレーの『幻想交響曲』から。快速テンポで標題にこだわらず、交響曲としての統一感を重視した解釈。交響詩のように演奏して作品の底の浅さを感じさせることなく、ドライブ感の中から自ずと情緒がにじみ出てくる名演。
・Beethoven: Sym.#1-9 (A.Cluytens/BPO; Disky Classics, HR 703732, 5CDs)
 次は、新レーベルから超廉価盤ボックスとして発売されたクリュイタンス/BPOのベートーヴェン交響曲全集。バラに名録音は数々あれど、全集としてはセルやアーノンクールに匹敵する、一貫した姿勢を持つ数少ない名盤の一つだけに、この扱いは解せない。奇数番と偶数番は本質的に同じ音楽だと教えてくれた。
・William Kapell edition (BMG, 09026-68442-2, 9CDs)
 そして、夭折の天才ピアニスト、カペルの正規録音集成。ニューヨークライブの完全録音や現代音楽への熱い想いを語ったインタビューなど、未発表録音が数多く含まれているのがまず嬉しい。ラフマニノフやプロコフィエフの協奏曲の豪放な名技性だけでなく、バッハのパルティータや『子供の領分』の内省的な解釈の深さは特筆もの。そして彼の広範な音楽性は、2曲のソナタをはじめとするショパン作品の録音に結実している。解説やブックレットも極上の出来。

(4) Schubert: Die schone Mullerin, Winterreise etc.
   (G.Husch & H.U.Muller; Preiser, 89202, 2CDs)


 というわけで、クラシックの面白さも見直した一年だったが、復刻盤関係での最大の収穫はヒッシュのシューベルト歌曲集だった。『美しき水車小屋の娘』『冬の旅』とも、語るような自然な歌唱と、感情表現をピアノに任せた結果としての立体的な表現は、作曲者が聴きたかったのはこういう演奏に違いない、という確信すら抱かせてくれた。サーフェスノイズを消さない復刻も良好。

Part 5: 上記の分類から洩れたディスク

 ここに残ったのは「その他」だが、広義のサウンドアート系の作品で占められている。現代音楽の領域における「電子音楽」の、正当な継承者たちというか。
・David Tudor: Rainforest (Versions I & IV) (mode, 64)
 まずは、現代音楽に近い方からで、作曲家に転じてからのチュードアの、電子回路音楽の代表作『雨の森』シリーズから。彼のディスクは一通り買っているつもりだが、その中でも抜群の出来だった。単純だが、血の通った発振音たち。
・Christian Marclay: More Encores (ReR, CM1)
 次は、マークレイの代表作の10年ぶりの再発売。ショパンやヨハン・シュトラウスからサッチモやゲンズブール&バーキンに至る、多彩なディスクがターンテーブルで料理されていくが、それぞれの音楽に合った(その音楽本来の特性を剥奪し、意外な面白さを引き出す)プレイスタイルを選んでいるのは流石だ。
・Merzbow: Music for Bondage Performance (EXTREME, XCD 008)
 そして、秋田昌美のユニット、メルツバウの代表作をようやく入手。ハーシュノイズと呼ばれるジャンルは、クセナキスのアナログテープ音楽の直系と言って良いだろう。秋田さんの場合は、そこにフェラーリ的なユーモアのセンスも加わって、これを聴いた後では近年のコンピュータ音楽など聴く気も起きない。これだけの作品が女体緊縛ビデオの背景音楽用に作られたというのもイイ話だ。

(5) Nzetwork Down: 1/1996/1997 (
HASIKAMKE, HS12CD01)

 有名音楽家の代表作が続いたが、それよりも上に友人のディスクを置けるのは、とても嬉しい。三木尚彦のソロユニットNzetwork Downは、環境音をベーシックトラックにして電子音を加えつつ作品に仕上げていくが、一見プリミティブな発振音を控え目に重ね、一見荒っぽい切断と接続を行うだけで、環境音が元々持っている時間を伸び縮みさせるのは全くオリジナルで魔術的。是非盤。

(次) 松平頼則:フィギュール・ソノール、舞楽、振鉾三節による変奏曲 etc.
   (野平一郎&高関健/東フィル et al.; フォンテック, FOCD2542)


 現代音楽のディスクから、これだけを切り離してここで扱うのは、単に5位のディスクの次点という意味だけではなく、このディスクの価値の微妙さの表れでもある。選曲は本当に素晴らしい。日本最高、20世紀屈指の作曲家である松平頼則の代表作が1枚にまとめられているのだから。演奏も、1曲目の『フィギュール・ソノール』での野平と高関の入念な解釈には文句の付けようがなく、2曲目の『舞楽』もマデルナの指揮で、雅楽のフレージングが十分に把握されていないもどかしさはあるが、松平頼則作品の海外での受容の記録としては興味深い。ところが、残り3曲の演奏は、作品の価値に泥を塗るような音出しレベルの代物で、どうしたものか....松平作品に積極的に取り組んでいる優れた若手演奏家は少なくなく、彼らを起用してすぐにでも再録音してほしい。そうすれば、気持ち良く1位に推薦できるだろう。




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