(2003.07) 長雨ノ鬱屈 − 7 月音盤雑録−



暫し無音にて御免。予定稿は当面飛ばし、本稿からで再度御免。

まずは関係ない能書き。
先月は久々に古典音楽/風琴音楽以外で蘭国 Willem Brueker Kollektief にハマっていた。変なオジサン、ウィレム・ブロイカー率いるこのガクタイは、マーチングから即興までやるホルモン全開バンド(コミックバンドではない)。フリーかつ即興スタイルだが、実際は古典から現代音楽、ポピュラーからオリジナルを編曲演奏し、演劇的パフォーマンスを取り入れたド明るいステージで有名。で、彼らのクルト・ヴァイルやガーシュインのアルバムなどは滅法面白かった。
鬼才ブロイカーは、どこかのインタビューで「音楽はもっと下品でなくちゃいかん」と語っているが、「なるほど」と膝を打つ。この「下品」という意味の真意はともあれ、品が良く小綺麗な中身に、原初の生命力は煦育されない。現今の古典音楽演奏に欠けているものこそ、この下品とも言える勁悍な生命力の発出のような気がするんだが...


Nimbus : NI5367

William Mathias : Organ Music
( Nimbus Records : NI 5367 )
  1. Fanfare (1987)
  2. Processional (1964)
  3. Invocations op. 35
  4. Fantasy op. 78
  5. Berceuse op. 95-3
  6. Jubilate op. 67-2
  7. Antiphonies op. 88-2
  8. Fenestra (1989)
  9. Recessional op.96-4
  10. Chorale (1966)
John Scott ( org : St. Paul's Cathedral, London )


最初は、ウィリアム・マサイアス(1934 - 1992)のオルガン作品集。8 月の初来日が待たれるキース・ジョンの来日プログラムにマサイアスの「Partita」が演奏されるが、マサイアスの予習を兼ね、聴いてみた。
マサイアスはウェールズ出身の作曲家。交響曲や弦楽四重奏あたりでも名が知れているようだが、英国の教会音楽/オルガン音楽では重要な人物の由。 (註1)  多くの英国オルガニストが時に取り上げるようだが、1 枚に纏まった風琴作品集としては、当スコット盤限りである。だが、残念ながら、ここには予習用の「Partita」は収録されていない。 (註2)

当盤は、1964 年から 89年までの 10 曲を収める。スコットによるセント・ポール大聖堂での録音。スコット本人が解説しているが、マサイアスは和声的にはドライで少々晦渋、不協和音の多用により、甘美な響きには薄い。時に「Processional」の出だしなどゴシック的な懐古調も聞こえてくる。「Invocations」を始め、渋いながらも技巧性も密度は濃い。ソロとアンサンブルの音響交差を始め豊富な音楽語彙に支えられているが、技巧性としては鮮烈さには欠け、安全圏にある技術を上手に組み合わせた感覚。初期の新古典風の作品を主に、ヒンデミットの影響をスコットは指摘しているが、確かに首肯できる。聴き手によるマサイアスの好悪は、そのあたりの趣向の違いが分かれ目になりそうな気がする。
マサイアス自身はオルガニストではなかったそうだが、オルガンの楽器機能の根っこをよく押さえている感がある。また、奔放な生命力や精神性には淡いものの、語り口が明快な音楽に纏まっており、知性ががっちり下支えして情感に流れないところがマサイアスの面白さかもしれない。音楽のスケラビリティはこぢんまりしているが冗長度が低く、私にはこうした音楽構成/技術構造の効率の良さが、実に英国人らしいオルガン作品という気がするし、これらの作品も教会音楽の性向よりもコンサートピースが自然と思われる。

スコットの演奏も、作品に対するシンパシィに富み、彼の体質にあったバランスの良い感性がうまく和合している。同じ晦渋系でも、デュプレの録音よりは全然できばえは良い。ただ、セント・ポールの残響をたっぷり取り込んだ録音のため、音楽の鋭利な強弱が暈けてしまうこと、またさらに磨かれた音栓感覚が反映されると、もっと面白くなりそうだ。ともあれ、何度か聴いているうちに味わいが染み出てくる感じで、スコットの面目躍如の感あり、楽しめた 1 枚。





PRIORY : PRCD 774

GEO No. 68 : Keith John plays the organ of Fulda Cathedral
( PRIORY : PRCD 774 )
  1. Johann Gottlob Töpfer : Sonata in d minor
  2. Jean Guillou : 18 Variations
  3. Schumann : Toccata op. 7 (trans. by Keith John)
  4. Mozart : Adagio and Fugue in C minor K.546 (trans. by Jean Guillou)
  5. Flor Peeters : Variations on an original theme op. 58
  6. Bedrich Wiedermann : Notturno
  7. Jiří Ropek : Variations on 'Victimae Paschali Laudes'
Keith John ( org : Fulda Cathedral, Germany )


さて、PRIORY レーベルの Great European Organs シリーズで、キース・ジョンの新譜が出た。今度はフランクフルトとカッセルの間に位置するフルダの大聖堂。元のケースとザウアーのパイプを核に、新しく拡張されたリーガー社のオルガンといった方がよい楽器である。今回はオリジナル作品が主体で、毎度のジョンの自編曲はシューマンのトッカータだけ。
さて、オリジナル作品におけるジョンの演奏を改めて閲すると、自編曲で存分に発揮されているトリビアルな情熱のある音楽性が殆ど見当たらない。そもそも彼は、自編曲において、原曲を「風琴作品」的音響像に相応しく換骨奪胎し、オルガンの楽器機能を駆使した細かな音栓技法や緻密なアーチキュレーションを軸に、魅惑的かつ効果的に聴かせているわけで、彼の魅力の多くはそこにある。とはいえ、彼のオリジナル演奏が詰まらないという話では決してない。むしろ選曲も含め、彼の理知的ながら誠実な音楽表現を感じつつも、実は水面下で彼本来の魅力が演奏そのものから地味に発現されているのである。彼のオルガンとオルガン音楽への深い共感と考察ぶりを感じた次第である。

個々の作品の話に移る。当アルバムで毎度のジョンらしい佳演は、やはりシューマンであろう。シューマン独特の主題/第二主題の執拗な展開と胡散臭い明るさが、ジョンの切り口によって音響的に面白く拡張されている。音楽それ自身があまりに単純としても、このような音楽展開だからこそ、オルガンならもっとメリハリが付けられると着目したのだろう。
それから、ギユー編のモーツァルト。ギユーならでの音響・音栓技法がジョンをして完全に透過できるのだが、なぜかジョン自身の姿が見えない。バランスも見事でうまいのだが、もうひとひねりあってもよさげなもの...  同じことがギユーの「18 の変奏曲」 (註3) にも言える。本人以外に、これほどギユー風味のレジストレーションを造作なく巧妙にこなせるオルガニストは多くないだろう。しかし、やはりさらにジョンらしい転回を経た味付けで料理してくれる方が、聴き手には嬉しかった。
そして、ペータース、チェコのロペック (註4) 。ここで取り上げられた作品は、いずれもネオ・バロック的な作風であり、調性の埒内で自由闊達な音の展開と機能和声の溶解を見せる。これらは実に卓れた演奏だ。特にペータースやロペックの修辞法のように、古典的な枠組みの中に巧妙にモダーンな色調を刷り込んだ作品では、ジョンの卓越したバランスが奏効し、斬新なものと古臭いものの交差が表情豊かに浮き上がってくる。ここがジョンの見事な練達の技である。
また、冒頭のテプファー(1791 - 1870)は、オルガン建造の理論家として有名な人である。 (註5) 音の快活な動きもよく愉悦感もあり、きっちりした演奏。またヴィーダーマンはロペックの師匠で、ロマン派と新古典の合間に漂うような音楽だ。

今回、私自身がここで一番楽しめたのは、実のところ、ペータースとロペックであった。先述のように、オリジナル作品でのジョンの姿は、自編曲でのように enthusiastic な感覚には薄い。だが、これら 2 人の作品のような、錯綜的に抱える複数の音楽要素を自然に拮抗させ、包摂できるような演奏が可能なのは、まさに同じ複数の感覚を併せ持つキース・ジョンその人だからではあるまいか。そして、解釈そのものの面白さより、作品の持つ音楽の内実を存分に溢出させるべく、演奏そのものが見事にそれを請け負っているのである。





PRIORY : PRCD 391

GEO No. 27 : Graham Barber plays the organ of Villingen Minster
( PRIORY : PRCD 391 )
  1. Karg-Elert : Partita in E op. 100
  2. Francis Jackson : Organ Sonata IV, op. 68
  3. Milhaud : Pastorale
  4. Demessieux : Te Deum
Graham Barber ( org : Villingen Minster, Germany )


次も、PRIORY の GEO シリーズだが新譜ではなく、たしか今年の春前に大林風琴音盤商会より購入したものである。改めて感想を求められたが、何度か聴いた割に書き留めていなかったので、詳細を忘却。ここで個人的備忘に処す。

佐々木 「え? グラハム・バーバーですか。期待薄じゃないですか??」
大林 「いやまぁ、なかなか出来がいいんですよ。騙されたと思って聴いてみてください」

騙されたと思って... とまで大林さんがおっしゃったか定かではないし、尤も大林さんは騙さないお人柄なのだが(笑)、簡単に概括すれば、慥かにこれは味わいよく纏まっている。選曲も面白いし、何より良かったのは、音色効果が生彩に富んだものになっていることだ。バーバーの演奏につきものの、或る種退屈に陥りがちな「のんびりさ」はここでも違いないものの、細かく音栓を使い分け、奥行きを濃くしているところは、なかなか値ある録音であろうと思った。
カルク=エレルトのネオ・バロック転向後の「パルティータ」。繊細なデュナーミクには届かないが、質朴な感触を得ながら、音楽は淡々としかし清潔な空気感で進む。幾分の鈍重さは否めないが、曲調とバーバーの性向とがうまい邂逅点(コンジャンクション)を捉えた感じで、私はいい演奏だと思う。次いで、フランシス・ジャクソンのソナタ第 4 番。音楽に少々苦さが加わって良い風味になる。やや丸太ん棒的演奏に近いが、聴かせどころが結構あり、楽しめた。ミヨーの「パストラル」はかなり遅めのテンポながら、細かな音栓使用で飽きさせずに聴かせる。バーバーと性向の近い(?)風琴奏者ジョルジュ・べーカーによるミヨー集 (註6) の同曲と較べると、オルガン音楽としての出来映えはバーバーが格段上だ。最後のドゥメシュの「テデウム」は、予想どおり、茨の道。何とか健闘しているが、バーバーのようなオルガニストが取り上げても、面白おかしく聴かせる作品とは思いにくい。こういうアルバム・コンセプトなら、それこそマサイアスを録れたら良かったのに... などと思ったりする。




■ 註 ■

(註1) 3 曲の交響曲を始め、マサイアスの作品の多く(殆ど?すべて?)は、オックスフォード大学出版局から出ている。
ここで彼の主要作品が観望できる。意外と管弦楽作品が多いことがわかったのだが、私の好きなアイリス・マードック(Iris Murdoch)による『The Servants』というオペラがどういうものか、個人的には気になるところだ。


(註2) この Partita op. 19 は 1962 年の作曲で、初期(28歳)の作品である。私の調査では、同曲の録音にはロビンソン盤、クレオバリー盤とクロージア盤がある。作曲年代の近い「Processional」同様、新古典的な作風で、技巧的には地味に聴こえるものの、音楽のスケラビリティもそこそこあって、リズムの面白さが光る佳品である。英国人のみならず、多くのオルガニストが好んで取り上げても良さそうな作品ではないかと思う。
クレオバリー盤は未聴。ロビンソン盤は、AMPHION がライセンス・リイシューした、元々 EMI の「Great Cathedral Organ Series」の 1 枚。Worcester Cathedral での録音。ロビンソン盤は質実な佳演だが、もっとシャープネスがほしい。また、クロージア盤はシャープで快速、音響的な采配も見事で、音楽全体の捉え方/こなし方がうまい。1 楽章 Maestoso が 3 楽章の最後に回帰してくるあたりなど感動的ですらある。この演奏を聴き、よくできた作品と思えた次第。ジョンの演奏に大いに期待したい。(2003.07.28 追補)

AMPHION : PHI CD 161

Selections from EMI Great Cathedral Organ Series vol. 2
( AMPHION : PHI CD 161 )
  1. Parry : Fantasia and Fugue in G op. 118
  2. Bridge : Allegretto Grazioso
  3. Bridge : Allegro Marziale
  4. Saint-Saëns : Improvisation No. 4 op. 150-4
  5. Saint-Saëns : Improvisation No. 7 op. 150-7
  6. Mathias : Partita op. 19
  7. Peeters : " O Gott, du frommer Gott " op. 68-2
  8. Peeters : " Nun ruhen alle Wälder " op. 68-3
  9. Duruflé : Prélude et Fugue sur le nom d'Alain op. 7
  10. Wesley : Larghetto in F sharp minor
  11. Jongen : Sonata Eroica op. 94
Philip Marshall ( org : Lincoln Cathedral ) [1/2]
Christopher Deanley ( org : St Paul's Cathedral, London ) [3/5]
Christopher Robinson ( org : Worcester Cathedral ) [6/8]
Melville Cook ( org : Hereford Cathedral ) [9/11]


PRIORY : PRCD 005

The Organ of King's College, Cambridge
( PRIORY : PRCD 005 )
  1. Parry : Fantasia and Fugue in G
  2. Alcock : Introduction and Passcaglia
  3. Mathias : Partita op. 19
  4. Britten : Prelude and Fugue on a theme of Vittoria
  5. Leighton : Paean
Stephen Cleobury ( org : King’s College, Cambridge )


IFO : 00056

Faszination Kathedralraum vol.15 : Orgelmusik 20. Jahrhundert
( IFO : 00056 )
  1. Langlais : Orgelsymphonie Nr. 1
  2. Kodaly : Epigrams
  3. Fricker : Pastorale
  4. Mathias : Partita op. 19
Sylvie Poirier [1], Philip Crozier [2/4] ( org : Dom, Altenberg )




(註3) この作品の録音を探していたのだが、ギユー本人の CD しか見つからなかった。ギユーは仏 Philips レーベルに、近年、自作自演集をまとまって録音しているが、さすがにいずれもまだ購入していない。JSB のボックスはやめておくが(笑)、いずれ纏めて聴きたいとは思っている。しかし、なにぶんギユーの音楽ばかり聴いていると、気が変になりかねないもので...

PHILIPS : 456 512-2

Jean Guillou joue Jean Guillou
( PHILIPS : 456 512-2 )
  1. Scenes d'Enfants, op. 28
  2. 6 Sagas, op. 20
  3. 18 Variations, op. 3
Jean Guillou ( org : Saint-Eustache, Paris )




(註4) 
イルジ・ロペック (1922 - ) は、メシアンとも親交のあったチェコの作曲家で、ここにも収録されているヴィーダーマンの弟子に当たる。政治的な問題で長く不遇だったようである。試しに Musica Bona にロペック自作自演盤を発注しているが、ここでは詳細情報がわからず、レーベルであるチェコの Multisonic のサイトを訪ねても、データはいい加減にしか書かれていない(こういう不完全な内容では自社サイトの意味がない)。とりあえず、"Victimae Paschali Laudes(過越の生贄をほめ歌え)" 変奏曲の別盤も見つけたので挙げておこう。

Multisonic : 310263-2

Jiří Ropek : Composer and Organist
( Multisonic : 310263-2 )
  1. Toccata for Organ
  2. Missa brevis
  3. Homage to the Anonymous
  4. Christmas Fantasy
  5. Fresco for Violin and Organ etc.
Jiří Ropek ( org ) etc.


Multisonic : 310347-2

Prague St. James's Basilica
( Multisonic : 310347-2 )
  1. Cernohorsky : Fugues in D majorr
  2. Cernohorsky : Fugues in C minor
  3. Jan Zach : Prelude and Fugue in C minor
  4. Eben : Windows, after Marc Chagall
  5. Josef Ferdinad N. Seger : Toccata and Fugue in A minor
  6. Jiří Ropek : Variations on "Victimae Paschali Laudes"
Irena Chříbkova ( org : St. James's Basilica, Prague ) etc.




(註5) Johann Gottlob Töpfer (1791 - 1870) は、リストと邂逅し、直接的にも間接的にも、リストにオルガンの蒙を啓いた人物でもある。テプファーはワイマール市のオルガニストであった 1830 年、彼の許にリストが訪ねてきた折、彼があたためていたオルガンの建造とデザインについて一席ぶったのみならず、弟子の Alexander Wilhelm Gottschalg (1827 - 1908) を紹介した。ゴットシャルクは、リストにオルガン作品を書かせ、出版させる契機となった人物である。


(註6) 下記べーカーのミヨー集は、4/5 月の試聴記で触れる心算でいたので、纏められればそこで詳説したい。この「Pastorale」自体は、作品としては平坦で退屈だ。べーカーの演奏はバーバーより 1 分半以上速い。テンポはそれでも悪くはないが、あまりに淡々と一本調子になっており、退屈窮まりない。バーバーのように、のんびりでも音色が多彩な味わいが楽しめる方がよい。

SOLSTICE : FYCD 916

Darius Milhaud : L'Oeuvre d'orgue
( SOLSTICE : FYCD 916 )
  1. Petite Suite op. 348
  2. Neuf Préludes op. 231b
  3. Pastorale op. 229
  4. Sonate op. 112
Georges Baker ( org : cathédrale, Chartres )






■ 関係作曲者 ■

上記の註の中で随時触れているが、今回取り上げた音盤に関係する作曲家の年代だけは纏めて記す。


■ 関係風琴 ■

省略


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