(2003.02) フォックスの仏国風琴音楽集



EMI : CDM 5 66386 2

Organ Music From France : The Art of Virgil Fox Vol. 3
( EMI : CDM 5 66386 2 )
  1. Dupré : Prelude & Fugue in g minor op. 7-3
  2. Vierne : Allegro, Scherzo from Symphony No. 2 op. 20
  3. Franck : Chorale No. 1 in E major
  4. Massenet : Elegie
  5. Godard : Berceuse from " Jocelyn " op. 109
  6. Boëllmann : Toccata from " Suite gothique " op. 25
  7. Franck : Cantabile in B major
  8. Duruflé : Suite op.5
Virgil Fox ( org : Riverside Church, New York )


ヴァージル・フォックス( 1912 - 1980 )は美国を代表する風琴奏者であり、この国には今もなお強烈な崇拝者が多数存在する。現在、「Virgil Fox Society」のサイトもあり、また(スキャンダラスな)伝記 (註1) も昨年発表されているので、詳細はそちらを。フォックスといえば、ロジャースの可搬型電子オルガンでのオール・バッハ・ライブが有名である。私は、しかし、ラジオでそれを聴き、どうもフォックスを妙な音楽家と敬遠してしまったことにフォックスとの出会いの不運があった。 (註2)

さて、この元々の音盤は、その名も「Organ Music From France」( Capitol : SP 8544 ; LP ) (註3) を軸に纏められている。彼が Captol に遺した録音を EMI が集成した CD は都合 4 枚ある。うち Vol. 1 と Vol. 2 は名曲拾遺集で、フォックス自身の編曲も含まれている。しかし Vol. 3 は、デュプレ、ヴィエルヌ、フランク、デュリュフレなどの本格的なオルガン作品を纏めたものであり、彼の演奏芸術を吟味する上で、興味深い録音である。
大変アクの強い、明快な個性を持つ演奏である以上に、その音楽表現は窮めて幅広くかつ丹念に磨き込まれたものである。ここには、彼の理想とする「完璧な音楽表現への執念」のようなものが強く瀰漫している

全体的にフォックスのデモーニッシュともいえる見事な指回り、細かなニュアンスまで行き届いたエクスプレッション・ペダル(デュナーミク)の効果、また非常に多彩かつ切り替えの多い能弁なストップの技法、など現代オルガン演奏に於ける主要素が大変明快・濃厚な形で立ち現れている。しかし、今回改めて聴き直してみて、むしろ私が意外に感じたことは、これらは「即興性」から実は完全に離れ、逆にはっきり「自らが完璧に設計した音楽」を志向しているということだった。私はフォックスを、もっと即興性の高いオルガニストだと勝手に思い込んでいたフシがあったわけだ。

例えば、デュプレにおける前奏曲の右手の動きは、単にその正確さを賞讃したいに非ず、私的にはこのデュナーミクの微細な変化に息を呑む。こんなことを容易にこなすオルガニストは他にいるのだろうか...
ヴィエルヌのスケルツォやデュリュフレのシシリアンヌでもそうだが、彼の奏でる音の動きは各声部とも実に克明で、しかも主旋律と対旋律の本質的な生命の違いまで弾き分けるのである!
デュリュフレのシシリアンヌの対旋律を、これだけ魅惑的に響かせることは余程の工夫がないと不可能だと思われる。フォックスは、響きの明晰さ以上に、絡み合う音の綾の微妙な相関を本当にわかりやすく、立体的に美しく繙いて呉れることで、不可能を可能にした。彼にとって旋律とは、主か副かという道理ではなく、複数の音の流れのうち「今どちらの生命が勝っているのか」を本能的に理解して弾き分けているに過ぎない、とすら思える。それは、フォックスの卓越した和声感と歌(或いは歌謡性)を伴うアーチキュレイトに支えられているわけである。
また、既に百選で挙げた Vol. 2 や Vol. 1 でも言うに及ばず、フォックスの謳いあげる旋律の美しさは、ここでのマスネやゴダールも全く同じである。だが、この盤では、凡作、フランクのカンタービレを、是非とも聴いていただきたい。この作品がデュナーミクだけで、類例を見ないほど、表情ゆたかに変身可能なのだという絶好の例である。

こうして、フォックスの和声感の見事な顕揚が、ストップ使用の多彩さにつながることも併せて理解可能となる。フランクのコラール第 1 番のように、切り替えを多用する彼の音栓技法に、当初はあざとさを感じていた。だが、実はフォックスの音栓感覚がアーチキュレイションと不可分であり、フレージング全体と音栓の多彩な切り替えとが音楽の抑揚、或いはアゴーギグの形成に奏効していることがわかった。これはヴィエルヌのアレグロでも同じで、特に複数パーツから成り立つこの曲のような転換を、ギクシャクせず多面的に扱えるのも、フォックスのこの音栓感覚の賜であり、それゆえに音楽が弛緩することがない。この録音をじっくり味わい聴けば、オルガンという楽器を通じ、我々が聴き取れる音楽表現の多彩さ、表情の豊かさとは一体どのように形成されるかをよく理解できる、意義ある 1 枚と私は確信する。

畢竟、フォックスの表現の豊かさとは、実はオーセンティック/オーソドックスな演奏技法にしっかり基づき、彼自身がよく咀嚼した音楽解釈にそれを完璧に沿わせ/組み合わせてゆくことで形成されている。詰まるところ、これは「マニエリスム」の極北なのではないかと思えるのだ。その意味で、フォックスは歴史上、特別に凄い技巧を持ったオルガニストというわけではない。にも拘わらず、竹帛に彼の名が垂るに相応しい特絶性があるとすれば、上記のように技巧と音楽性を「ごく自然に自分の音楽の佇まいへ融合してしまう」烈々たるマニエリスムなのではなかろうか。 (註4)




■ 註 ■

本文が長くなりすぎたので、折り畳みました。全部読みたいご奇特な方はソースで読んでください。(2003.03.06 識)

紹介しておきながら何だが、現在、「The Art of Virgil Fox」シリーズの本作( vol. 3 )が販売店データベースでどうも挙がってこない。廃盤ではないと思うが、品切れ儘の模様である。vol. 1、2 も素晴らしいものの、私はフォックスの魅力を知るには、まずこの vol. 3 をこそお薦めしたいと思うのである。


(註1) Richard Torrence, Marshall Yaeger " Virgil Fox (The Dish) " ( Circles International, 2001 )
フォックスの晩年主体の伝記ではあるが、彼の同性愛を暴露し、美国では物議を醸した本である。彼の腹心の友であり子分( protégé )であった Ted Alain Worth の思い出に基づく内容を主体に構成され、その他併せて、フォックスに関わる親友・弟子達などの談話をを纏めている。

Virgil Fox (The Dish)

Richard Torrence, Marshall Yaeger " Virgil Fox (The Dish) "
- Based on a memory by Ted Alain Worth -

( Circles International, 2001 ; 432pp ; ISBN: 0-9712970-0-2 )
    With Contribution

    William Armstrong, Marilyn Brinnan, Louise Clary, Andrew Crow, Curlo Curley, Steven Frank, Robert Fry, Albert Fuller, Robert Hebble, David Lewis, Douglas Marshall, Richard Morris, T. Ernest Nichols, Michael Stauch, Frederick Swann, Charles Swisher, Floyd Watson




(註2) フォックスによるロジャースの可搬型電子オルガンと多数の PA を使ってのオール・バッハ・ライブといえば、真っ先に思い起こされるのが、1970 年、ロックのメッカであるニューヨークの Fillmore East に於けるライブである。が、最初に私がラジオで聴いた録音は、73 年のカーネギーホール・ライブの方だったかもしれない。抑もジャック・ルーシエやオイゲン・キケロあたりと同列に紹介した NHK-FM 「バロック音楽の楽しみ」(解説は皆川達夫)では、明らかに「キワモノ」的扱いだったことになる。却ってこれが、子供心に微妙な影を落とし、どうにもこのフォックスの「濃さ」についてゆけなくしたのではないか、と考えたりする...  しかし、今さらだが、ライブに於ける音楽を謳歌するフォックスの姿と録音での彼の完璧性とでは、聴き手に課せられる集中力はかなり違っている。ライブでの「緩さ」が、レコード録音では微塵もないことを再度強調しておこう。

フィルモア・イースト・ライブを含め、ロジャースのツァー・オルガンで録音したライブが 3 種類が CD でも出ていたが、現在は MCA の 2 盤は品切れか廃盤のようである。日本では、このカーネギー・ホール・ライブが一番有名かも知れない。
  • Heavy Organ - Bach Live at Carnegie Hall ( RCA : 68816 )  下盤参照
  • Heavy Organ - Bach Live at Fillmore East ( MCA : D2 9827A )
  • Heavy Organ - Bach Live at Winterland West, San Francisco ( MCA : D2 9827A )

RCA : 68816

Heavy Organ - Bach Live at Carnegie Hall 1973
( RCA : 68816 )
  1. Chorale " Wir glauben all an einen Gott " BWV 680
  2. Chorale " Nun freut euch, lieben Christen gmein " BWV 734
  3. Finale from St. Matthew Passion BWV 244
  4. Prelude & Fugue in e minor BWV 548
  5. Toccata & Fugue in d minor BWV 565
  6. Passacaglia & Fugue in c minor BWV 582
  7. Fugue in G major BWV 577
  8. The First Nowell ( Christmas Traditional )
  9. Richard Storrs Willis : It Came Upon a Midnight Clear
Virgil Fox ( org : Rodgers touring organ ; Dec. 20, 1973 )




(註3) 本 CD ( EMI : CDM 5 66386 2 ) は 3 枚のキャピトル録音から成り立っている。タイトリングにも使用された盤は以下のとおり。残念ながら、「Silhouettes」 ( Capitol SP 8509 ) については、フィルアップの詳細は不明。
  • Organ Music From France ( Capitol : SP 8544 ) 1961
    1. Duruflé : Suite op.5
    2. Vierne : Scherzo from Symphony No. 2 op. 20
    3. Franck : Chorale No. 1 in E major
    4. Dupré : Prelude & Fugue in g minor op. 7-3
  • The Virtuoso organ ( Capitol : SP 8499 ) 1959
    1. Bach : We all belive in one God
    2. Daquin : Noël
    3. Vaughan Williams : Fantasia on " The old hundredth "
    4. W. Midelschulte : Perpetuum Mobile
    5. Guilmant : Marche réligieuse
    6. Franck : Cantabile in B major
    7. E. Bossi : Giga
    8. Boëllmann : Toccata from " Suite gothique " op. 25
  • Silhouettes ( Capitol : SP 8509 ) 1960
    1. Massenet : Elegie
    2. Godard : Berceuse from " Jocelyn " op. 109 etc.


(註4) 「ごく自然に自分の音楽の佇まいへ融合してしまう」といっても、「自然」という意味ではなく、やはり徹底して人工的に収斂されたものである。たとえ彼の演奏が実に「自然に」聴こえたとしても、それは「作られた自然」なのであり、それが彼のマニエラなのである。その意味で、彼の音楽はまさに「神は細部に宿りたまふ」ものとなっている。フォックスのパースナリティについて私は語るべくもないが、彼の演奏芸術というものを「自己表現の完璧性」というフィルタに見た場合、私などは指揮者のメンゲルベルクを思い起こしてしまう。こじつければ、メンゲルベルクの「濃さ」もフォックスのそれに似通った表象があるのではないかと思ったりする。




■ 関係作曲者 ■

省略

■ 関係風琴 ■



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