(2003.01) オルガニスト、ティエリー・エスケシュ
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ティエリー・エスケシュ ( 1965 - ) はパリ音楽院でプルミエ・プリ 8 つを取得した鬼才である。現在、彼はヴァンサン・ヴァルニェとともに、デュリュフレ及びデュリュフレ夫人の後継者として、パリの聖エチエンヌ・デュ・モン教会での 2 人制ティチュレルの 1 人として活躍しているが、作曲の方も大変意欲的で、作品も既に多数ある。
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いやはや、フランスは世界一のオルガニスト王国である! まだ、こんなとんでもないオルガニストがいた。エスケシュは傑出した organist = composer = improvisator である。まるで錬金術師のような男だ...
昨年 12 月上旬、大林師匠から「エスケシュという風琴奏者をご存じですか」と尋ねられた。大林師匠は、後で記すクローデルの『十字架への道』盤で知った由。また、話題のルゲ嬢やラトリによるエスケシュの作品集 (註1) のリリースもこの頃だったので、併せて質問されたものと思われる。私の方は、偶々届いたヴァルニェの新譜 (註2) にエスケシュの作品が収録されており、丁度、その名前をリマインドしていた時であった。1 枚だけ彼の録音を持っていた。それが、Chamade の「Orgues d'Ile-de-France vol.1」である。最初に聴いた際、その才気は理解できたが、改めて聴き直してみると、もっと真面目に聴いておけば良かったと溜息が出た。お蔭で年末年始は完璧にエスケシュにはまった。以下、入手できた 4 盤のうち、3 盤について簡単にコメントした。

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Orgues d'Ile-de-France vol.1
( Chamade : CHCD 5620 )
- Albert Alain : Toccata ( Final sur l'antienne Cantemus Domino )
- Jehan Alain : Deuils
- Jehan Alain : Variations sur un thème de Clément Janequin
- Jehan Alain : Litanies
- Escaich : Symphonie improvisée sur le nom d'Alain
- Petr Eben : IVe mov. from Laudes
- Escaich : Cinq versets sur Vicimae Paschali
Marie-Claire Alain ( org : Église St. Germain, Saint-Germain-en-Laye )
Thierry Escaich ( org : Collégiale Notre-Dame, Mantes-la-Jolie )
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CHCD 5620 に関する一番最初の印象は、かなりホットな感触。その上で実に知的な暴力性発出が起こる。
聴き直しての感想は、彼の暴力性には漠たる怖さを感じることだ。私見では、フランスの伝統書法の系譜に連なった人に思える。エスケシュは澄ましたシニカルさやひねりとは無縁であり、ひたすらストレートな情念表現をぶつけてくる。それが好ましい反面、執拗に情念の高揚が寄せてくると、段々怖くなってくる(大林さんも同様に指摘している)。
アランの名による即興は、技巧とともに音色的な陰翳も豊富で素晴らしい。エーベンは、沈降する重量を感じずカラリとしているが、これだけでは何とも言えない。自作自演の「Victimae Paschali による 5 つのヴェルセ」。短いヴェルセの連続だが、生命力が眩しい。コシュローを想起するような箇所もあるが、或る意味ではコシュローの始源的な生命力よりも知的に複雑で、回転速度が速いとでもいう感覚か。
エスケシュの音楽は一聴、難解そうだが決して晦渋ではなく、むしろ大変わかりやすい。音色的な美しさも存分あり、またハキム同様、リズムも複雑で豊かであるが、デュナーミクの効果に傑出した特徴が見られる。

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Thierry Escaich : Improvisations
( Chamade : CHCD 5635 )
- Noël : Entrée - Offentoire - Communion - Sortie
- Semaine Sainte : Jeudi Saint - Vendredi Saint - Samedi Saint
- Pentecôte : Entrée - Offentoire - Communion - Sortie
- Assomption : Entrée - Offentoire - Communion - Sortie
Thierry Escaich ( org : St. Pierre de Chaillot, Paris )
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Chamade CHCD 5635。95年の録音。こちらは 4 主要聖務 (Office) に資する即興演奏である。即興というには凄まじく複雑な書法が鏤められているが、パラメータが余りにも多彩・多様過ぎ、悲しいかな、私にはその何分の 1 程度も分析的理解に至らない。ライナーによれば、この即興はエスケシュ自身 20 年の典礼経験の成果(録音当時、彼は 30 歳だが)の由。ここでの彼は、伝統書法のあらゆる要素を瞬時に処理しながら即興を形成する感覚を受け、いみじくも大林さん曰く「手回し式計算機から一挙にスパコンに替わった」との表現が適切至極な音楽の姿態を見せて呉れる。
この中では「聖週間(Semaine Sainte)」の 3 つの即興が特に素晴らしい。聖木曜での聖歌パラフレーズにスタッカートで変幻自在にコードを衝突させる妙味、聖金曜での凄絶な磔刑のドラマ、復活日での民の嘆泣をペダルの複雑なパッセージで見せる表現、対比的に復活の象徴として、周囲が光に充たされてゆく様子を息の長いクレシェンドで和声進行するなど、音のドラマツルギーに卓越しており、その視覚効果は聴き手にも容易に酌み取れる。一方でペンテコステの 4 つの即興では、交唱「Veni Creator」の大胆な置換のような知的組成も滅法面白く、まるで音の錬金術である。
このように、典礼のための即興とは言いながらも、作品以上に作品足る、複雑多岐な音楽技法の集成となっていることは瞠目に値する。私的には、エスケシュの「激的な情念の起伏」は、神秘的なロマンチシズムが内奥に定礎したものではないかと思う。なお、CHCD 5630 なる即興と自作自演の先行盤(92年録音)があり、入手できれば、是非聴いてみたい。

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Escaich-Claudel : Le Chemin de la Croix
( Calliope : CAL 9523 )
Thierry Escaich improvisations d'après Paul Claudel "Le Chemin de la Croix" [Recite and improvisations alternative]
Georges Wilson (comédien)
Thierry Escaich ( org : Cathédrale Notre-Dame, Laon )
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CAL 9523。この録音に関するコメントは、別途、違う切り口で触れる予定。ポール・クローデルの『十字架への道』の朗読とその感興(インスピレーション)からエスケシュが応答即興した興味深い録音である。

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Thierry Escaich joue Thierry Escaich
( Calliope : CAL 9937 )
- Prélude improvisé
- Motet I pour 12 voix et orgue
- Evocation I
- Evocation II
- Cinq versets sur Vicimae Paschali
- Motet II pour 12 voix et orgue
- Esquisse I
- Récit
- Esquisse IV "Le cri des aîmes"
- Motet III pour 12 voix et orgue
- Esquisse III
- Tanz Fantaisie pour trompette et orgue
- Postlude improvisé
Ensemble vocal Soli Tutti, Eric Aubier (tp)
Thierry Escaich ( org : St. Etienne-du-Mont, Paris )
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CAL 9523。タイトルどおり、エスケシュの自作自演集である。が、最初と最後は「来たれ、異邦人の救い主よ」に基づく見事な即興で囲んでいる。これを聴くと、エスケシュ作品の体臭はほぼ理解できた。結論から言うと、非常に複雑な修辞性を以て書かれたものが多い。また、これらの作風と性質的に類比可能な先達作曲家を、私は今のところ想到できない。仏国コンテンポラリも少し調べてみないとなるまい。素直に感じた音楽の在り方としては、やはり作品群よりは即興演奏の方がストレートなので、遙かに私には与しやすいということだ。
一聴、彼の作品は、東西の境界的な風趣とモザイックで不定型な連続体のように聞こえるが、実のところ、大変明解なロジックを持っている。特に対峙する要素を「対比」させつつ、終結部で見事に「止揚」してしまうロジックだ。音の流れの対比のみならず、例えば 「violent」 と 「ethereal」 という感覚的な対比も重要な要素である。
まずモテットの方は、III だけが私的感性に適うが、残り 2 作は少々オリエンタルな風味にかたぶき過ぎだ。
彼の風琴作品の中で、群を抜いて面白かったのは、本篇中で最も暴力的と自らが公言する「エスキス(素描) IV」である。シャルトルの国際コンクールのファイナル用に委嘱された作品で、強烈な音塊や破壊力より、敏捷なデュナーミク、ペダリング、音楽の段差などの方が、弾き手には相当手強そうだ。
「エスキス III」も面白かったが、「エヴォカシオン」など他作も聴きながら感じたことは、まず非常に chromaticism で織り込まれた作風である点だ。快速感溢れる Scherzo / Toccata 風味の曲では特にその転変調で、また緩徐作品では、逆に機能和声を対比させることで効果をあげる。次いで、先述のとおり、対峙する音楽要素を激烈に衝突させる点だ。例えば「レシ」。叙情的で簡素な音の流れに、スタッカートやクラスタを屹立させて断絶し、エピソードを挿入しながら、大胆に両者を止揚して終結する。さらに、複雑なポリフォニーの形成も特徴的で、緩徐作品になるほど不気味な感触に横溢する。
トランペットとオルガン(オリジナルはピアノらしい)のための「舞踊幻想曲」も、動性と夢幻性の alternate な運動体。しかし、無軌道な感覚がさほどないところが、エスケシュか。Chamade CHCD 5620 にも収録されている「Vicimae Paschali による 5 つのヴェルセ」を較べてみると、Chamade 盤の方がテクスチュアは精細であるが、音楽の抑揚は Calliope 盤が勝る。
ともあれ、音楽の表情が余りにも陰惨である上、求心力が強靱で、聴き続けているうちに、音楽に没入することに恐怖すら感じてくる。情念の起伏が激しいあたり、高久暁氏のコメントの「映画音楽で成功できる!」 (註3) という謂いも首肯はできる。しかし、即興に比べると、作品は高度に知的かつ修辞的で、オルガンの無垢な音響的エクスタシスはどうも薄い。そういう点で、私はエスケシュに或る種コシュローに近いものを感じるのだが、決定的に違うとすれば、エスケシュの作品にはコシュローの「人間臭さ」のようなものが希薄だということだろうか...
■ 註 ■
(註1) 下記、エスケシュの管弦楽系作品集がリリースされた。現在入手中につき、残念ながら未聴。いずれご報告できればと思う。ラトリはエスケシュ作品のエヴァンジェリストの一人らしい。Hortus レーベルにも、ヨハネ福音書に基づいたエスケシュ作品「Le Dernier Évangile(最後の福音書)」で参加している。エスケシュのパリ・ノートルダム大聖堂での即興も入っている由、こちらも入手中につき、いずれご報告できればと思う。

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Thierry Escaich
( Accord : 472 216-2 )
- Concerto pour orgue et orchestre
- Symphonie n°1 " Kyrie d’une messe imaginaire "
- Fantaisie concertante pour piano et orchestre
Olivier Latry (org), Claire-Marie Le Guay (pf)
Orchestre Philharmonique de Liège
Pascal Rophé (dir)
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(註2) ヴァルニェの新譜にはエスケシュ「3 つの詩曲」より 2 篇が収録されている。個人的には、アランやタンギュイの作品より、こちらを全部入れてほしかった... 当盤については、ポ堂・音盤買物記(2002.12)で触れた。

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Vincent Warnier : Alain, Duruflé, Escaich, Messiaen, Tanguy
( Intrada : INTRA 003 )
- Jehan Alain : Litanies
- Duruflé : Prélude et Fugue sur le nom d'Alain op.7
- Jehan Alain : Choral dorien
- Thierry Escaich : 2 Poèmes from " Trois Poèmes "
- Jehan Alain : Deuxième Fantaisie
- Duruflé : Scherzo op.2
- Messiaen : Apparition de l'Eglise éternelle
- Éric Tanguy : Cinq Litanies
Vincent Warnier ( org : St.Etienne-du-Mont, Paris )
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(註3) 『レコード芸術』2003.01号 p.214。ルゲのディスコグラフィに於けるエスケシュ作品集のコメントを参照。
■ 関係作曲者 ■
Thierry Escaich については、以下のネット・リソースを参照(大林師匠に多謝)。余談だが、ご本人の PR サイトは、現今話題の美人洋琴奏者であるクレール=マリー・ルゲ嬢のサイトとウェブデザインが同一で、インタビューの模様からしても、エスケシュと親しい間柄のようである。
(cf.) ルゲ嬢のインタビューは、高久暁が『レコード芸術』2003.01号、小沼純一が『musée』vol. 40 を参照。
■ 関係風琴 ■
- Collégiale Notre-Dame, Mantes-la-Jolie(会堂+風琴)については、こちらを参照
- Saint Pierre de Chaillot, Paris(会堂+風琴)については、こちらを参照
- Cathédrale Notre-Dame, Laon(会堂)については、こちらを参照
- Saint-Etienne-du-Mont 風琴については、こちらを参照
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